熟成肉の格之進

  1. 熟成肉の格之進
  2. 門崎熟成肉

「ジャージー子牛肉」と「有難豚(ありがとん)」

要約

「第17回肉肉学会」のテーマは「アビタニア・ジャージーファームのジャージー子牛」と「高橋希望(のぞみ)さんの有難豚(ありがとん)」。
アビタニア・ジャージーファームのジャージー牛肉は7か月齢と11か月齢の子牛肉。経営主の安原栄蔵さんには、「第14回肉肉学会」の「64か月齢のジャージー去勢牛肉」でも登場していただいた。今回は、子牛牛肉だけでなく、低温殺菌牛乳やヨーグルトも提供していただき、酪農家の恵みをフルに活用させていただいた。
「有難豚」は東日本大震災で宮城県名取市にあった養豚場が津波に流されてしまった高橋希望さんが東京で飼う放牧豚。津波で養豚場が流されたとき、高橋さんは東京で仕事をしていたが、養豚場にいたお父さんは「縦型コンポスト(堆肥を発酵させる密閉した発酵装置で高さは10mを超える)」の上に避難して無事だった。流された母豚たちのうち一部は自力で波から逃れ、倒壊した飼料タンクの中で残った餌を食べたり、近所の見知らぬ家で保護されたりして数十頭が高橋さんの元に残ったという。この日提供された豚肉は、それらの子孫に当たり、東京都杉並区の某所で放牧肥育されたもの。

安原栄蔵さん
高橋希望さん
更科堀井・堀井社長(中央)

牧場の概要

アビタニアジャージーファームの概要

「ABITANiAジャージーファーム」は青森県鰺ヶ沢町にあるジャージー牛専用牧場。1990年に6頭の牛からスタートし、現在は成牛、子牛合わせて約100頭の牛を飼育している。経営主の安原栄蔵さんは、我が国のジャージー飼育の草分け的な存在である「神津牧場」で勤務した後、カナダでの実習等を経て、現在地に新規参入農家として就農した。就農に当たっては、農林水産省の「畜産基地建設事業」を活用している。
1997年にはアイスクリーム工房「ミルム」を設立。2016年には畜産クラスター事業(農林水産省の補助事業)を活用して、食肉加工もできる乳製品製造施設が完成。現在では、牧場で生産・肥育したジャージービーフを自ら販売するほか、チーズ、バター、ヨーグルトの製造販売も行っている。
本牧場では、雌雄判別精液の使用による雄雌生産のコントロールはしていないため、生産される雄子牛は自家肥育を行っている。肥育方式にはあまりきっちりしたルーティンはなく、雌肥育同様、牧草と少量の配合飼料で飼育しているため、肥育期間は長くなる傾向にあるようだ。雌牛肥育は、繁殖時に太りすぎたものなどを肥育に回しているほか、自家更新で余った雌牛も適宜、肥育を行っているとのこと。十和田市のと畜場でと畜し、大分割したあと、2016年に完成した食肉加工施設で自ら部分肉加工し、加工場に併設するカフェ[MilMu]でジャージービーフとして提供している。更に、弘前市のホテルにも販売しているが、量的には限界があり、定期定量販売というところにまでには至っていない。
ジャージー牛の管理は、放牧も行いながら自給飼料生産も実施しているが、栄養価が高いアルファルファをカナダから輸入して給与している。乳脂率の高いジャージー牛の飼育には、1アルファルファ給与が必要との考えからだ。

「有難豚(ありがとん)」の概要

前述したように、高橋希望さんは、東日本大震災の発災時は、東京で食育コーディネーターをしており、兄と弟がいたので実家の養豚場を継ぐ意志はなかったとのこと。現在は、宮城県栗原市の養豚場(名取市の実家養豚場が崩壊したあとで借りている豚舎)の母豚から生まれた子豚を東京都世田谷区の植木屋さんの敷地内で7〜8ヶ月放牧飼育している。精肉販売とハム・ソーセージなどの加工品(ハム工房等への委託生産)を契約販売している。事業規模の拡大は難しいので、小頭数ながら、付加価値を高める戦略である。飼育する豚の品種は、もともと飼育していた黒豚やデュロック種を交配したものが主体で、茶色と黒の斑柄の豚は、見た目にも人気があるとのこと。 なお、ゲーム開発会社とタイアップした「ようとん場」というゲームアプリが180万ダウンロードを超える人気を有しており、100万ダウンロード記念の「豚肉プレゼント企画」で「有難豚」の精肉やソーセージをプレゼントしたこともあるとのこと。

本日の食材

月齢の異なる2頭のジャージー去勢子牛の肉で、1頭は2017年4月25日生まれの11か月齢、1頭は2017年8月5日生まれの7か月齢で、どちらもアビタニアジャージーファーム産、2018年3月14日に出荷され、同日、十和田食肉センターでと畜されたもの2。前者の枝肉重量は57kg、後者は同46kg。給与飼料は同牧場が飼育する他の肥育牛と同様、牧草(アルファルファ主体)と若干の配合飼料とのこと。「子牛肉」といっても、ミルクのみを給与する「ヴィール」ではなく、肉食も赤身である。

「有難豚」は飼育規模が小さく、定時定量出荷という体制がとれないため、また精肉は契約販売を主体としていることもあり、今回は「有難豚」の生ハムに。放牧豚のモモ肉の2年熟成とのことで宮城県内の業者に委託製造している。肉色が美しく原木の香りも芳しい。適度な塩加減で風味豊か。美味しい。
(写真:有難豚の生ハム原木)

本日のメニュー

〇 アビタニアジャージーファームの牛乳(乾杯)
〇 有難豚の生ハム(写真1)
〇 クリームヨーグルトのカナッペ「セルヴェル・ド・カニュ」(写真2)
〇 ヨーグルトとフルーツ、ジャージー牛の生ハムのサラダ(写真3)
〇 ジャージー子牛の内臓のソーセージ「アンドゥイエット」(写真4)
〇 ハツのソテーとレバテキ(写真5)
〇 ハチノスとセンマイのトマト煮込み(写真6)
〇 子牛のステーキ (7か月齢と11か月齢)(写真7)
〇 子牛のミートボール モッツアレラチーズのグラタン(写真8)
〇 子牛のジャージーミルク煮(写真9)
〇 牛そば 肩ロース首もととスジ肉の付け汁(写真10)

参考文献

アビタニアジャージーファーム HP
有難豚 FB
総本家更科堀井
家畜改良センター個体識別情報検索サービス
格之進 HP

脚注

1 アルファルファはヨーロッパ原産のマメ科牧草。栄養価が高く「牧草の女王」と呼ばれるが、酸性土壌の多い日本では栽培適地が少なく、ほとんど北米からの輸入に頼っている。

2 個体識別番号「1363840722」「1363840630」を「家畜改良センター」の個体識別情報検索サービスで確認。

写真

1有難豚の生ハム
2クリームヨーグルトのカナッペ
3ヨーグルトとフルーツ、ジャージー牛の生ハムのサラダ
4ジャージ肉の内臓のソーセージ「アンドゥイエット」
5ハツのソテーとレバテキ
6ハチノスとセンマイのトマト煮込み
7 子牛のステーキ 7か月齢と11か月齢
8子牛のミートボール モッツァレラチーズのグラタン
9子牛のジャージーミルク煮
10 肩ロース首もととスジ肉のそばつけ汁

「沖縄県石垣島やえやまファーム「南ぬ豚」」 「和牛飼料で育てた28ヶ月齢ジャージー去勢牛145日熟成とQビーフ」 「総本家更科堀井さんとの共同研究:肉そば(続編)」

要約

第16回肉肉学会のテーマは、「沖縄県石垣島やえやまファーム・南ぬ豚(ぱいぬぶた)」「和牛飼料で育てた28ヶ月齢ジャージー去勢牛118日熟成」、「Qビーフ」に「総本家更科堀井さんとの共同研究:肉そば」。
やえやまファームは沖縄県石垣島で、牛・豚の飼育のほか、有機パイナップルやシークワーサー、マンゴー等を栽培し、果汁等に加工する六次化を実践している。「南ぬ豚」はパイナップ由来のエコ飼料により育てた沖縄アグーの交雑種(F1豚)で、オレイン酸を豊富に含む豚とのこと。
「和牛飼料で育てたジャージー牛28ヶ月齢145日熟成肉」は前回、前々回の学会で使用した千葉県山武市の小林牧場の牛肉を熟成し続けたもの。
今回は、第11回肉肉学会で学んだ「Qビーフ」の44ヶ月齢雌牛も試食した。
「肉そばの研究」はシークレット企画で、日本そばの老舗「総本家更科堀井」さんと「格之進」さんとの共同研究。今回はシリーズ2回目となる。
今回のゲストは、やえやまファームの中川さんと森さん、総本家更科堀井の堀井社長。

やえやまファーム:中川さん
やえやまファーム:森さん

牧場の概要

① やえやまファーム

やえやまファームは果樹と畜産の六次化事業を展開しているが、豚や牛を飼育している牧場は「幸福牧場」と呼ばれている。
ここで、沖縄アグー豚のF1豚にパイナップル粕など独自の飼料を給与したオリジナルブランド豚が「南ぬ豚」。
パイナップル粕は発酵飼料として給与しているので食い込みがよく、腸内細菌群を整え健康に育つとのこと。アグーのF1なので、算子数が少なく、肥育効率も悪いことから、肥育期間も通常の豚より1ヶ月ほど長くしているとのこと。
また、「幸福牧場」では自給飼料とパイナップル粕等で肥育した黒毛和牛も肥育している。
なお、やえやまファームには「ロート製薬」が資本参入している。製薬会社なのに「薬に頼らない製薬会社になりたい」との方針から、薬膳フレンチレストラン「旬穀旬菜(しゅんこくしゅんさい)」も展開するなど、食ビジネスに積極的に関わっていかれるそうだ。

② Qビーフ

「第11回肉肉学会の概要」を参照のこと。

③ 和牛飼料で育てた28ヶ月齢ジャージー去勢牛肉

「第14回肉肉学会の概要」を参照のこと。

本日の食材

沖縄県石垣島やえやまファームの「南ぬ豚」
小林牧場の和牛飼料で育てた28ヶ月齢ジャージー去勢牛145日熟成
Qビーフ(放牧肥育の44ヶ月齢和牛雌牛)

本日のメニュー

〇 南ぬ豚のバラ肉のリエット(写真1)
〇 南ぬ豚のモモ肉のモルタデッラ(写真1)
〇 南ぬ豚のウデ肉のパテドカンパーニュ(写真2)
〇 南ぬ豚の肩ロースソテー(写真3)
〇 南ぬ豚のロースカツ(写真4)
〇 28ヶ月齢ジャージー去勢牛145日熟成のサーロイン(写真5)
〇 Qビーフのサーロイン(放牧肥育の44ヶ月齢黒毛雌牛)(写真6)
〇 更科堀井格之進 うしそば
  そば(写真7)と牛スジのつけだれ(写真8)

南ぬ豚のブロック肉
ジャージー(右)とQビーフ(左)。
放牧したQビーフの脂は黄色い

参考文献

やえやまファームHP

ロート製薬
QビーフHP
総本家更科堀井

格之進 HP

写真

1 南ぬ豚:バラ肉のリエットとモモ肉のモルタデッラ
2 南ぬ豚:ウデ肉のパテドカンパーニュ
3 南ぬ豚:肩ロースのソテー
4 南ぬ豚:ロースカツ
5 Qビーフのサーロインステーキ
6 28ヶ月齢ジャージー去勢牛のサーロインステーキ

7、8 堀井更科のそば、牛スジのつけ汁

「田中畜産の放牧敬産牛」と「八丈島乳業のジャージー乳製品」「和牛飼料で育てた28ヶ月齢ジャージー去勢牛118日熟成」「総本家更科堀井さんとの共同研究:肉そば」

要約

第15回肉肉学会のテーマは、「田中畜産の放牧敬産牛」「八丈島乳業のジャージー乳製品」「和牛飼料で育てた28ヶ月齢ジャージー去勢牛118日熟成」に「総本家更科堀井さんとの共同研究:肉そば」と盛りだくさん。
田中畜産は兵庫県但馬地域の繁殖経営だが、経産牛について、穀物飼料で飼い直すのではなく、6〜8か月間の放牧により仕上げて牛肉として販売している。放牧による草だけの仕上げなので肉量は少なく肉質も固いものとなるが、田中畜産では、この牛肉を自ら部分肉、精肉にカットし宅配することで売り切ってしまう。
八丈島乳業のジャージー乳製品は、八丈島で僅かに残った乳牛であるジャージー牛の放牧搾乳し、ソフトクリーム、ヨーグルト、チーズなどの乳製品を製造、島内中心に販売している。ジャージー牛の特徴を活かした乳製品は人気を集め、島外では入手困難なほど。
「和牛飼料で育てたジャージー牛28ヶ月齢118日熟成肉」は前回の学会で入手した千葉県山武市の小林牧場の牛肉を熟成し続けたもの。
「肉そばの研究」はシークレット企画で、日本そばの老舗「総本家更科堀井」さんと「格之進」さんとの共同研究。今回はシリーズ1回目となる。
今回のゲストは、田中畜産の田中あつみさん、八丈島乳業の歌川社長、魚谷工場長、総本家更科堀井の堀井社長。

田中あつみさん
魚谷さんと歌川さん
千葉さんと堀井さん

牧場の概要

① 田中畜産

田中畜産(たなちく)は、田中一馬さんが代表を務める和牛経営。但馬牛1は、日本の和牛のルーツであり、田中さんは黒毛和種の繁殖経営として子牛を家畜市場で販売する業務をメインに、精肉販売、削蹄業(牛の蹄を手入れする事業)を営む。今回は、一馬さんの都合がつかず、奥様のあつみさんにプレゼンしていただいた。あつみさんは宮城県登米市の出身で、岩手大学を卒業後岩手の牧場でアルバイトをしていたときに一馬さんと知り合い、結婚。兵庫へ移住して牧場の仕事と子育てを両立させるスーパーかあさんである。
子牛生産の役割を終えた雌牛(経産牛)は、通常、そのままか配合飼料を給与した「飼い直し肥育」を行って、と畜するが、田中畜産では、放牧による飼い直し肥育を行っている。ただ、このような牛肉は赤身主体で枝肉重量も大きくならないので経済的にはメリットが薄く、一般の流通ルートには乗りがたい。このため、田中さんは自ら精肉として販売し、SNSを活用することで、「放牧敬産牛」というブランドで消費者に直接販売して活路を見いだしている。ご夫婦揃って、強力な発信力を持っていることが奏功し、「放牧敬産牛」は発売早々、あっと言う間に売り切れる人気商品となり、今回の牛肉も何とか確保できた「トモバラ」である。

② 八丈島乳業

「八丈島乳業」は、八丈島唯一の乳業会社であり、自ら「ゆーゆー牧場」2という直営牧場でジャージー牛を飼育している生乳生産から加工まで一貫して行っている乳業メーカーである。歴史的には八丈島は「ホルスタインの島」として酪農牛業が島の中心産業だった時代もあるが、乳業工場撤退等に伴い、島内の飲用消費だけで酪農経営を持続することは困難となった。
(写真:牧草を食べるジャージー搾乳牛)
このため、一端、酪農経営、乳業工場は島からなくなるが、八丈島乳業が自ら牧場と乳業工場をもつことで、島内での酪農・乳製品製造が復活した。この際、ホルスタインより乳脂肪率が高いジャージー種を導入し、島の自然環境を活かした放牧酪農を取り入れたことで、観光ともマッチした独自の乳製品開発が可能となった。
(写真:ゆーゆー牧場で放牧中の搾乳牛)
魚谷さんが工場長となったことで、チーズを中心に知名度もアップしているが、現在では、需要に製造が追いつかないという嬉しい悲鳴も聞こえている。このため、現在の海岸に隣接した放牧場だけでは飼料が不足することから、和牛用に開発された「八丈富士牧野」等の活用も視野に入れて増頭する計画も進行中とのことである。
(写真:八丈小島を臨む和牛の放牧地)

③ 小林牧場(山武分場)

「第14回肉肉学会の概要」を参照のこと。

本日の食材

ア:
田中畜産さんの「放牧敬産牛」は「てるとよ」の「トモバラ」。「てるとよ」は平成13年生まれの雌牛だから約14歳の牛。
イ:小林牧場(「第14回肉肉学会の概要」を参照のこと)
小林牧場のジャージー去勢牛は、枝肉重量365kg、格付等級はC2。
今回は、118日熟成という超長期熟成肉。

本日のメニュー

田中畜産の放牧敬産牛、八丈島乳業の乳製品
小林牧場の和牛飼料で育てた28ヶ月齢ジャージー去勢牛118日熟成

〇 八丈島乳業ジャージー牛乳と市販牛乳の対比
〇 八丈島乳業モッツァレラチーズのカプレーゼ(写真1)
〇 八丈島乳業マスカルポーネサラダ(写真2)
〇 八丈島乳業ジャージー牛乳のラザニア(写真3)
〇 28ヶ月齢ジャージー牛コーンドビーフ(写真4)
〇 28ヶ月齢ジャージー牛リエット(写真4)
〇 28ヶ月齢ジャージー牛モルタデッラ(写真4)
〇 放牧敬産牛と28ヶ月齢ジャージー牛のトモバラ・煮(写真5)
〇 放牧敬産牛と28ヶ月齢ジャージー牛のトモバラ・焼き(写真6)
〇 28ヶ月齢ジャージー牛 ソトモモローストビーフ(写真7)
〇 28ヶ月齢ジャージー牛 リブロースステーキ(写真8)
〇 更科堀井格之進 うしそば2種牛スジそば&シンシンそば(写真9)

参考文献

田中畜産HP
田中畜産の放牧敬産牛の哲学(農畜産業振興機構HP)
年末食べる用の食材その2 田中畜産・田中一馬君が放牧で育てた経産牛いや敬産牛「きょうふく」のお肉。(やまけんの出張食い倒れ日記)
八丈島乳業HP
総本家更科堀井

格之進 HP

脚注

1 但馬牛
「但馬牛」は「たじまうし」と読む場合は生体あるいは血統を指し、「たじまぎゅう」と読む場合は牛肉を指す。「たじまうし」の子牛を買って他県で肥育すれば他県のブランド牛となる(国内での原産地表示は、最も長く飼育した場所となるので、通常1歳以下の子牛を買って、最低でも1年半以上肥育する和牛の場合は、肥育地名が牛肉の原産地名となる)。「たじまうし」は肉質に優れるが、小さい牛なので、肉量はとれない。
「但馬牛(たじまぎゅう)」あるいは「但馬ビーフ」は我が国で「地理的表示保護制度(GI)」に登録されている牛肉で「但馬牛(たじまうし)を素牛とし兵庫県内において出荷まで肥育を行った生後28ヶ月齢以上60ヶ月齢以下の雌牛・去勢牛であり、肉質等級A・B2等級以上」と定義されている。

2 ゆーゆー牧場
「八丈島乳業」の生産部門である牧場。もともとは八丈富士の麓に近い山腹にあったが、搾乳しやすい海岸そばのミニゴルフ場跡地に移転し、日本では珍しい「リンクス」牧場となっている。このため青い海と放牧地というコントラストが素晴らしく、観光資源としても有望な牧場となっている。
潮風を始終浴びているため、通常の放牧に必要な「鉱塩」(飼料となる塩等の塊)を給与する必要がない。ただ、放牧地としての草量に乏しいため、搾乳頭数を増加させるためには面的な拡大が必要であり、隣接地の買収等が課題となっている。

写真

1 ジャージーのモッツァレラのカプレーゼ
2 ジャージーのマスカルポーネサラダ
3 ジャージー牛乳のラザニア
4 28ヶ月齢ジャージー牛肉のコンビーフ、リエット、モルタデッラ
5 ジャージーと放牧敬産牛:トモバラ煮
6 ジャージーと放牧敬産牛:トモバラ焼き
7 28ヶ月齢ジャージーのソトモモのロースト
8 28ヶ月齢ジャージーのリブロースステーキ
9 堀井更科の更科と二八そば、牛スジのつけ汁

ジャージー牛肉の食べ比べ(飼料と肥育期間の違いの研究)

要約

第14回肉肉学会のテーマは、「ジャージー牛肉の食べ比べ」。
10月29日の全日本・食学会主催「全日本・食サミット」でスーパーシェフに提供した、青森県鰺ヶ沢町アビタニアジャージーファームの68か月齢の去勢肉と千葉県山武市小林牧場の28か月齢の去勢肉を食べ比べた。もっとも両者の差は月齢だけでなく、アビタニアファームの牛は牧草主体(放牧含め)の飼料給与、小林牧場は和牛と同じ配合飼料等を給与、と飼育形態が異なることにも留意したい。
アビタニアジャージーファームは、ジャージーだけ飼育する酪農場で、牧場主の安原栄蔵さんは、自らジャージー去勢牛(時には雌も)を肥育し、食し、販売して、牛肉としてのジャージー牛の可能性を研究してきた方。今回の牛は68か月齢という超長期肥育1の牛である。
一方の、小林牧場は、福島県飯舘村で和牛肥育をしていた小林将男さんが、東日本大震災被災後に千葉県山武市の協力で「分場」を作り、牧場経営を再開したもので、今回、提供の牛は、茨城県稲敷市新利根共同農学塾農場で放牧酪農を営む上野裕さんが飼育していたジャージー去勢子牛を、和牛と同様の方法で肥育した牛である。
今回のゲストは、安原栄蔵の長男の大地さん、小林将男さん、新利根共同農学塾の上野裕さん。

写真:上から
右:安原大地さん
小林将男さん
左:上野裕さん

牧場の概要

① アビタニアジャージーファーム

アビタニアジャージーファームは、安原栄蔵さんが新規就農者として入植した青森県鰺ヶ沢町の牧場で、ジャージー種だけを飼育し、生乳を利用した乳製品製造・販売、ジャージーの去勢牛などの販売(レストラン等への販売のほか、直営カフェでも利用)、自家製造の乳製品や肉製品を扱うカフェの営業などを行う「六次化」の実践者であるとともに、「酪農教育ファーム」に永年、取り組み、消費者への酪農の状況を理解していただく取組みのリーダーでもある。

② 新利根共同農学塾農場(乳と蜜の流れる牧場)

「新利根共同農学塾農場」は、茨城県稲敷市の水田に囲まれた牧場で、現在は、関東地方では珍しい放牧酪農を行っている、経産牛35頭、育成牛20頭を飼育する牧場。
この牧場の3代目に当たる上野裕さんは、2005年に、それまでの牛舎の中で通年、牛を飼う方式から冬期を除いて放牧する方式に切り替えた。ホルスタイン、ジャージー、その交雑種を飼育している。また、新しい取組としてチーズ生産者の西山厚志さんとタッグを組んで、放牧牛乳によるチーズ製造を支援している。

③ 小林牧場(山武分場)

小林さんは東日本大震災発災までは、福島県飯舘村で黒毛和種の繁殖肥育一貫経営をされ、繁殖雌牛約50頭、肥育牛約100頭を飼育していた。東京電力福島第一原発の事故により避難を余儀なくされ、平成23年4月に千葉県山武市の空き牛舎を借り、飯舘村から142頭の牛を運搬し経営再開。その後、山武市の協力を得て、被災地域農業復興総合支援事業により飯舘村が山武市にビニールパイプ牛舎を整備し、当面、小林さんは山武市で増頭を図る方針。

本日の食材

ア:
アビタニアジャージーファームのジャージー去勢牛肉は、平成24年5月10日生まれの64か月齢で出荷した牛。枝肉重量422kg,格付等級はB22。生後12か月までアルファルファ乾草主体で、それ以降はイネ科牧草と飼料米、若干の配合飼料で、48か月齢以降はアルファルファ乾草と飼料米、配合飼料を給与。格之進で60日熟成。

イ:小林牧場
小林牧場のジャージー去勢牛は、「新利根共同農学塾農場」で平成27年6月11日に生まれ、28年10月2日に小林牧場に移動し29年10月2日までの1年間、小林牧場で飼育された牛。小林さんが挨拶で仰ったように、生後1年未満で小林牧場に移動して、肥育牛としての管理をすれば「もう少し良い肉になったかも知れない」(肉用牛は一般的に生後7〜10ヶ月齢程度の子牛を導入して肥育する)。枝肉重量365kg、格付等級はC22。 なお、「新利根チーズ工房」から「フロマージュ・ブラン」が提供されている。

本日のメニュー(和牛飼料の28ヶ月齢と牧草肥育の64ヶ月齢)

〇 64ヶ月齢 タンソテー(写真1)
〇 64ヶ月齢 コーンドビーフ(写真1)
〇 ジャージー牛のフロマージュブランのカナッペ(写真1)
〇 28ヶ月齢 タリアータ クレソンのサラダ 
フロマージュブランのドレッシング(写真2)
〇 64ヶ月齢 レバーソテー(写真3)
〇 2種の食べ比べ Lボーンのローストビーフ(写真4〜6)
〇 ジャージー牛100%のハンバーガー(写真7)
 (28ヶ月齢90%+64ヶ月齢10%)
〇 フロマージュブラン

上:28ヶ月齢ウデ
中:同 肩ロース
下:同 トウガラシ
会場の様子

参考文献

アビタニアジャージーファーム(青森県畜産協会HP)
「東日本大震災からの復旧・復興」(小林牧場の紹介)農水省HP
山武市職員オモテナシブログ(山武和牛〜小林牧場さん移転記念〜)
新利根共同農学塾HP(フィールド・オブ・ドリームス)
新利根チーズ工房(「チーズメディア」記事)

格之進 HP

脚注

1 ジャージー牛の肥育期間
ジャージー牛は「肉用牛」としてのマニュアルが確立しているわけではないので、適正な肥育期間があるわけではないが、ホルスタイン去勢牛並に(配合飼料給与で)飼育するのなら、22〜24ヶ月齢で出荷されることになる。
一方で、ジャージー牛はホルスタインよりサシが入りやすいことも知られているので、和牛並の27〜30ヶ月齢で出荷する方が一般的なようである。
なお、30か月齢以上肥育しても(配合飼料で)肉質の改善は見られないとの研究報告がある。

2 ジャージー牛の肉質
ジャージー種を集団的に飼育している某地域では、酪農家で生まれた雄子牛を農協として集約的に肥育し、農協直営のレストランで提供している。ここでのジャージー種の肥育成績は、以下の通りである(28年度)。
平均出荷月齢  30ヶ月(日齢913日)、平均枝肉重量 385kg
肉質等級:3が46%、2が58%。
歩留まり等級:Bが63%、Cが37%

写真

1 64ヶ月齢:タンシチュ、コンビーフ、フロマージュブランのカナッペ
2 28ヶ月齢: タリアータとクレソンのサラダ  フロマージュブランのドレッシング
3 64ヶ月齢:レバーソテー
4 Lボーンのローストビーフ
28ヶ月(左)と64ヶ月(右)
5 28ヶ月齢:Lボーンのローストビーフ(カット)
6 64ヶ月齢:Lボーンのローストビーフ(カット)
7 ジャージー牛肉100%ハンバーガー
(28ヶ月齢90%、64ヶ月齢10%)

雄子山羊肉とジャージー雄子牛

要約

第13回肉肉学会のテーマは、「雄子山羊肉とジャージー雄子牛肉」。
第12回肉肉学会では「磯沼ミルクファームのジャージー未経産牛」を取り上げたが、ジャージーは搾乳量はホルスタイン種より少ないものの、乳脂肪率の高さや放牧に伴う独特の風味があることなどから、チーズをはじめとした乳製品としての評価が高く、酪農家戸数・乳牛飼育頭数が全体で減少している中で、ジャージーはここ数年横ばいとなっている1
また、ヤギについても、食用としてのヤギ肉の消費は沖縄や奄美など伝統的なヤギ食文化のある地域に限定されますが、各地でヤギ乳を原料としたチーズ(シェーブル)を製造する工房2も増加している。
こうしたなかで、ジャージー種も乳用ヤギも、その雄子畜については「副産物」であることから酪農家で育成することは希で、肉資源としてはほとんど活用されていない。
今回のテーマはそうした「低利用資源」を、ヤギについては、春生まれの子山羊肉として、ジャージーについては、生まれてからミルクだけ給与した「ミルクフェッド・ヴィール(子牛肉)」として味わい、その可能性を研究するというもの。
今回のお客様は、ヤギ肉が「那須高原今牧場チーズ工房」の高橋雄幸さん、ミルクフェッド子牛肉を那須町「森林ノ牧場」の山川将弘さん。

写真左:高橋雄幸さん、写真右:山川将弘さん

牧場の概要

① 今牧場チーズ工房(ヤギ部門)

今牧場チーズ工房では、牛のチーズとヤギのチーズを製造しているが、ヤギのチーズは高橋雄幸さん担当。
今牧場チーズ工房の搾乳用ヤギは20〜25頭。このほか、雄ヤギと子ヤギがいるので、分娩後のヤギ舎は賑やかである。ヤギは牛と異なり季節繁殖・生産なので、子ヤギが生まれ始め2月頃から搾乳が始まり、秋には終了となる。このため、フレッシュチーズが主体の工房では山羊チーズ3も3月頃から11月頃までの製造・販売となる。
なお、ヤギの乳頭は2本(牛は4本)なので、ミルカー(乳頭に装着して搾乳する装置)はヤギ専用の使用し、写真のように後ろから搾る。
牧場で生まれたヤギのうち雌は搾乳用に育成するが、雄は1歳未満で買い手がつけば残すことになる。現在は宇都宮のレストラン等に販売することもある。この日提供していただいたヤギは3月に開催した第10回肉肉学会(熟成肉とチーズの研究)にプレゼンしたくれた高橋さんに、翌年生まれる予定の雄子ヤギについて「売約」していた2頭である。
なお、今回は「子ヤギ肉」のほか、ヤギのチーズの「朝日岳」、「茶臼岳」、それと販売していない「秘密のチーズ」4も提供していただいた。

② 森林ノ牧場

「森林ノ牧場」は、我が国でも数少ない、放牧を基本とした酪農場で、かつ林間放牧的5な手法をとっていることも酪農では珍しい。また、飼育している牛の全てがジャージー種であることも数少ない形態(岡山県の蒜山のように地域全体でジャージー種を飼育している例は僅かながらあるが)。
「森林ノ牧場」はジャージーを放牧飼育するというスタイルを最大限に活かすため、自ら牛乳、ソフトクリーム等の乳製品を製造販売している。ジャージー種の生乳をそのまま出荷すると他の牧場が生産した生乳と同じタンクローリーで輸送するため、ジャージー種の特徴が活かせないためである。
また、代表の山川さんは「大の乳製品製造好き」なので、ジャージー種の生乳で乳製品を製造すること自体が好きで、この道を選んだとも思える(苦労の多い道だと推察するが)。
「森林ノ牧場」では生産される生乳の全てを、乳製品に自家製造し、搾乳を終了した経産牛も直営レストランで料理として提供している。ジャージー雄子牛については、首都圏のレストランに「ミルクフェッド・ヴィール」として販売しているが、飼育規模が小さいので、雄子牛の販売も年に数頭程度である。

③今回の肉と乳製品

ア:
今牧場の雄子山羊肉は、生後6か月半のもので、うち1頭は去勢がうまくいってなくて「タマ付き」だった。結果的に「タマ」も食する機会ができて良かったが。出席者からは、「覚悟していた」ヤギっぽいクセがないとのことで好評だった。
また、今牧場からはヤギのチーズを3種、提供いただいた。フレッシュチーズ「朝日岳」、シェーブルタイプのチーズ「茶臼岳」と試作品であるセミハード系チーズ「秘密のチーズ(3か月熟成)」、牛乳製の7か月熟成チーズ(ラクレット風)である。

イ:
森林ノ牧場
「森林ノ牧場」のジャージー子牛肉は、生まれてから出荷までミルクだけを与えた「ミルクフェッド・ヴィール」。ミルクと言っても生乳だけ飲ませていてはコストがかさむので、ミルク、粉ミルク、ソフトクリームミックス、ヨーグルトの廃棄もの、ホエーなど乳製品製造の過程で出てくる商品にならないものを使用している。通常、生後50〜100日、枝肉重量で25〜40kgで出荷しているとのこと。今回の子牛は生後56日、枝肉重量30kgのミルクフェッド・ヴィールである。
なお、乳製品の方は「搾るヨーグルト」(マヨネーズのようなチューブケースに入れたヨーグルト。トッピングなどに適した容器になっている)と「キスミル」(生乳から脂肪分をとったあとの「無脂肪乳」を使用した乳酸菌飲料。小規模でバターを製造する際に、無脂肪乳を使用した乳製品を作るという発想から生まれた商品)。

本日のメニュー  (〇はジャージー関係、●はヤギ関係)

〇 ジャージー牛乳
● 朝日岳のカナッペ(写真1)
● 玉ソテー(写真2)
● ホルモンソテー(レバー、肺、食道等)with茶臼岳(写真3)
〇 発酵バター生地のパイ子牛のヒレ肉包み(写真4)
〇 ホルモンのトマト煮込み(小腸、センマイ、ミノ、ハチノス等)(写真5)
● 骨付きモモ肉ロースト(写真6、7)と秘密のチーズ(写真11)
● 骨付き肉と野菜の蒸し煮(写真8)
〇 ジャージー牛のグリル(写真9)
〇 クリーム煮と発酵バターライス(写真10)

上:ジャージー子牛
中:7か月熟成チーズ
下:子ヤギ肉
子ヤギの内臓:左から、気管、食道、肺、レバー、腎臓、ハラミ、サガリ。
キスミルと搾るヨーグルト
朝日岳
茶臼岳

参考文献

森林ノ牧場HP
那須高原今牧場チーズ工房HP

格之進 HP

脚注

1 ジャージーの飼育頭数と戸数
ジャージ種雌牛の飼育頭数は11千頭を若干下回る水準で、飼育戸数は1470戸前後で推移。頭数が多い地域は北海道、岩手、岡山、栃木、熊本など。

2 ヤギチーズ工房
我が国のチーズ工房の多くは牛乳のチーズを製造しているが、最近は品質の高いヤギのチーズを製造する工房が徐々に増加している。今牧場チーズ工房を始め10を超える工房が北海道から沖縄まで、各地に存在する。

3 ヤギの乳から作るチーズを「シェーブル」と呼ぶ。シェーブルの独特の風味は「カプロン酸」「カプリル酸」などのヤギ乳に含まれる脂肪酸によるもの。

4 「秘密のチーズ」は今牧場チーズ工房が試作しているハード系のチーズで、熱を加えることで、シェーブルのクセが抜けて食べやすくなる。現在ではヤギ乳の生産量に限りがあるので、熟成期間が長いハードタイプのチーズを量産することは難しく、商品化の見通しはたっていないとのこと。

5 放牧を基本とする「森林ノ牧場」は東日本大震災時の原発事故による放射性物質のフォールアウトの影響を受け、除染作業を余儀なくされた。

写真

1 朝日岳のカナッペ
2 ヤギの「玉」ソテー
3 ヤギのホルモンのソテーwith茶臼岳
4 発酵バター生地の包みパイ
5 子牛ホルモンのトマト煮
6 骨付きモモ肉のロースト
7 骨付きモモ肉のロースト(カット)
8 骨付き肉と野菜の蒸し煮
9ジャージー牛のグリルに7か月熟成のチーズ
10子牛肉のクリーム煮と発酵バターライス
11 ヤギ乳の秘密のチーズ(3か月熟成)

磯沼ミルクファームのジャージー未経産牛

要約

第12回肉肉学会のテーマは、「八王子の磯沼ミルクファームのジャージー未経産牛」。
「肉肉学会」が追求するテーマは「お肉の美味しさとは何か」「様々なお肉にはそれぞれ独自の美味しさがある」「多様な美味しさを追求する生産者を応援する」などがあります。慣行飼育法による和牛だけでなく、放牧肥育の和牛であったり、沖縄在来種のアグーであったり、お肉の美味しさを開拓し、消費者の皆さんに評価していただくことを目指しています。
今回のテーマである「ジャージー未経産牛」は、「ジャージー種」という日本では食肉利用の道が確立していない乳用種(生乳を搾るための品種)で、かつ、未経産の雌牛という、分娩して生乳を搾るために飼育されている雌牛を未経産のまま肥育した特殊な牛肉です。
今回のお客様は、この牛を仕上げた八王子の磯沼ミルクファーム代表の磯沼正徳さん。また、磯沼さんとコラボしている「日本橋ゆかり」の野永喜三夫さんにもお話しいただいた。

写真左:磯沼正徳さん、写真右:野永喜三夫さん

ジャージー未経産牛肉の概要

① 磯沼ミルクファーム

磯沼ミルクファームは八王子市(京王線山田駅そば)にある都市近郊酪農家。コーヒー殻を敷いた牛舎でフーリーバーンという放し飼いスタイルで牛を管理し、牛舎廻にある牧草地や林間に放牧をするなど牛に優しい飼育管理を実践している。
磯沼ミルクファームでは国内では珍しい5品種1の乳牛を飼育し、「酪農教育ファーム」という子どもたちへの「農育」、ヨーグルト製造などの六次化を実現するなど先進的な取組を次々に実現している。
我が国の乳牛は99%が搾乳量の多いホルスタイン種で占められ、乳脂肪分の多いジャージーやタンパク質の多いブラウンスイスなどは特徴的な乳牛は、一部の農家でしか飼育されていない。極めて多様性に乏しい状況なのである。

② ジャージー種の牛肉

我が国の国産牛肉を供給ベースでみると約45%が和牛、55%が乳用種と交雑種(乳牛を母、和牛を乳とする雑種)であり、それぞれについて一定の「肥育方式」があることで斉一性のある牛肉を生み出している。
乳用種の中での消費の主体は去勢牛肉で雌については搾乳後に「廃用牛」としてと畜され、挽き肉の材料やレトルトカレーなどに利用される。
以上のような乳用種の肥育・利用体系はホルスタインを前提としており、圧倒的な少数派であるジャージーなどその他の品種については、農家で分散飼育している(1戸当たりでみると数頭しか飼育していない)ことから、ホルスタイン種のような体系的な「肉利用」がなされていない。
一方で、ジャージーを集団的に飼育している産地では、観光客用にレストラン等で利用できるよう、地域内のジャージー種の去勢を肥育している場合もあるが、この場合でもホルスタイン種や和牛と同様の穀物主体の配合飼料を給与しており、品種としての特性が活かされている訳ではない(ジャージー種をホルスタイン種と同様に肥育すると、ホルスタイン種より肉質が良く、肉質等級3が4割程度出現すると報告もある)。
このため、「一般社団法人 全日本・食学会」では「シェフ牛事業」2と称する、ジャージー種を放牧肥育する実験事業を29年度から3年間の計画で行っているが、今回のテーマである「ジャージーの未経産雌牛」は、牛肉としては非常に貴重な個体である。

③今回の牛肉

今回の牛肉は、磯沼ミルクファームで生まれ、育成・肥育された「ジャージー未経産牛」の38か月齢(下の写真)。通常、乳用種の雌は分娩して搾乳するために飼育されているので「未経産雌牛」を肥育することは滅多にない(繁殖障害などで、妊娠しないことを理由に処分されることはあるが、この場合でもわざわざ「肥育」することはない。飼料代と手間暇かけても牛肉としての評価は低くペイしないためである)。
 今回の牛は、「フリーマーチン」3という雌なのに生まれつき繁殖能力のない個体として生まれた牛。この牛を磯沼さんが、「アニマルウェルフェア」の観点から、繁殖能力のない雌といえども肉としての価値を高めて、経済動物としての命を全うさせたいという思いから飼育されていた牛である(38か月齢は、和牛と比べて8〜10ヶ月ほど長い出荷月齢となる)。
 格之進での熟成期間は50日間。

なお、未経産牛の肥育は、和牛では特定のブランドで行われている。「松阪牛」「米沢牛」などがそうで、雌は筋繊維のキメが細かく、柔らかい肉質であることなど品質の高い牛肉となるためであるが、肥育効率は去勢より劣るため出荷月齢は去勢より長くなり、仕上がり時の枝肉重量も去勢を下回る。

本日のメニュー

〇 ミートパイ(写真1)
〇ジャージーホルモン(ミノ、ギアラ、シマチョウ、直腸、ハツモト)とハツのサラダ仕立て、塩麹ドレッシング。
〇 レバーソテー(写真2)
〇 塊肉
ウチモモ、ランプ、イチボ(写真3)
〇 ローストビーフ
  ソトモモ(写真4)、骨付きサーロイン(写真5,6)
  ※低温で9時間じっくり焼き上げたもの。
〇 キーマカレー(写真7)
〇 磯沼牧場のヨーグルトと島バナナ(写真8)
〇 江戸っ米ぷりん(写真9)
  日本橋ゆかり・野永喜三夫さん提供の東京こだわり食材※を使った江戸前ライスプリン。


①磯沼ミルクファーム(八王子市)のジャージー牛乳
②カトウファーム(町田市)のこだわり卵
③高月営農集団清流米部会(八王子市)の米・もち米

参考文献

磯沼ミルクファームHP
東京牛乳HP(生産者紹介)
畜産における六次化産業例(農水省HP/磯沼ミルクファーム)
日本橋ゆかりHP(三代目ブログ)

格之進 HP

脚注

1 磯沼ミルクファームにはホルスタイン、ジャージー、ブラウンスイス、ガンジー、エアシャーの5品種の乳牛がいる(個人経営では最も他品種の乳牛がいる牧場)。夢は7品種を飼育することだそうだ。
2 シェフ牛事業(仮称)
ジャージー種やブラウンスイス種のように、現在の牛肉流通消費体系では活かされていない牛肉を、放牧肥育することで新たな商品として創り出していこうとする取組み。(右図参照)

3 フリーマーチン(英:freemartin)とは、牛の異性多胎において雌胎子が生殖器の分化に異常をきたし不妊となる個体。牛の異性多胎では90%以上がフリーマーチンとなる。その発生率はホルスタイン種では1〜2%。雌としての繁殖能力がないため、生まれてまもなくソーセージ原料などに処分される例が多い。

写真

1 ミートパイ
2 レバーソテー
3 ウチモモ、ランプ、イチボ
4 ソトモモのローストビーフ

5 サーロインのローストビーフ

6 キーマカレー
7 磯沼牧場のヨーグルトと島バナナ
6江戸っ米ぷりん

完全放牧黒毛和牛と今帰仁アグー

要約

第11回肉肉学会のテーマは、「完全放牧黒毛和牛」。
「肉肉学会」の初期のテーマで取り上げた「Qビーフ」は、九州大学の後藤貴文・農学部准教授(当時。現在は鹿児島大学農学部教授)が研究されている国産自給飼料主体で肥育した黒毛和種の牛肉である。今回のテーマである「完全放牧黒毛和牛」は、佐賀県鹿島市が九州大学とタイアップして実践している牛肉で、Qビーフと同様、「代謝インプリンティング」技術で育成した黒毛和牛を、鹿島市内のみかん荒廃園で周年放牧肥育した牛肉である。要は、荒廃したみかん園を活用した牧草地に春夏秋冬・朝昼晩、黒毛和牛を放って育てた牛である。佐賀県といえば高級ブランド「佐賀牛」が有名だが、あえて霜降り牛肉生産ではなく、サシがほとんど入らない放牧牛肉生産にチャレンジしたのが鹿島市なのだ。
今回のお客様は、樋口久俊鹿島市長で、自ら鹿島市の取組をプレゼンしていただいたほか、後藤貴文鹿児島大学農学部教授にも「Qビーフ」のご説明をいただいた。
更に、「今帰仁アグー」の高田勝さんにも再登場していただいた。

写真左:樋口久俊・鹿島市長、写真右:後藤貴文・鹿児島大学農学部教授

完全放牧黒毛和牛の概要

① Qビーフ

我が国の肉用牛肥育は、育成期を除いてほとんど輸入穀物を原料とした配合飼料を給与している。黒毛和種、乳用種、交雑種など品種ごとに配合飼料給与による肥育技術が確立しており、品種の特性が活かされた牛肉生産体制となっている。一方で、国産の飼料資源を中心とした牛肉生産を指向すれば、一部の飼料用米などを除けば、牧草資源に頼らざるを得ないこととなる。この場合、エネルギー不足による肉質低下(サシが入らない)、発育不良(肉量がとれない)、牧草由来のカロテン摂取による脂肪の色の悪化(黄色くなる)など経済的な損失が見込まれるため、農家段階で放牧肥育を実践することは難しい。

一方で最近の「赤身肉」ブームに見られる消費者の健康志向をターゲットにすれば、サシが入らない「牧草牛」は一定の評価を得られると思料するが、枝肉重量の極端な低下は何とか防ぎたい、という思いを実現する技術として「代謝インプリンティング」を実証したのがQビーフであり、九州大学農学部附属農場高原農業実験場(大分県竹田市)で実践肥育を実施している。

② 鹿島市の取組み

佐賀県鹿島市は、耕作放棄地面積の増加(平成27年は耕地面積の12%)が農業の大きな課題となっており、特に農業生産の主要品目であるみかん園の荒廃が揉んだとなっている。傾斜地に多いみかん園では、耕作放棄されると他に適当な作物がないが、牧草であれば傾斜地でも栽培可能で、かつ、放牧であれば、牧草管理を大幅に省略できることに着目して、Qビーフとの連携を図ることにした。具体的には九州大学農学部附属農場でインプリンティングした黒毛和牛を鹿島市内の放牧地(元みかん園)2.3ヘクタールに25年度2頭、27年度2頭導入して放牧肥育に取り組んだ。

③今回の牛肉

今回の牛肉は、2013年7月23日生まれの黒毛和種の雌である。生後2年4か月まで大分県竹田市の九州大学農学部附属農場で飼育されたのち、2015年11月10日に佐賀県鹿島市に移動して2017年3月13日まで鹿島市で放牧肥育され、2017年3月17日に大分県畜産公社でと畜されている。 出荷月齢44か月(3年8か月)ながら、枝肉重量は220kgと普通肥育の雌の6〜7割程度となっている。格付はB1だが、サシだけみれば「2」くらいの感じであった(放牧牛は、肉色や脂の色で「格落ち」になるケースもある)。

本日のメニュー

【完全放牧牛】
ネックの煮込み  (写真1)
Lボーンステーキ(写真1、3)
ナカニクのローストビーフ(写真2)

【今帰仁アグー】
パテドカンパーニュ(写真4)
肩ロースのハムのシーザーサラダ  (写真5)
ウデ肉のスライス生姜焼きスタイル
肩ロースのローストポーク (写真6)

写真

1 ネックの煮込みとLボーンステーキ
2 ナカニクのローストビーフ
3 Lボーン
4 パテドカンパーニュ
5肩ロースハムのシーザーサラダ
6肩ロースのローストポーク
7千葉さん

参考文献

みかん荒廃園を活用した黒毛和牛の周年放牧による牛肉生産-佐賀県鹿島市の挑戦-佐賀県鹿島市公式HP
Qビーフ(九州大学)
Qビーフ(九州大学農学部附属農場高原農業実験実習場)
代謝インプリンティングを基盤とした子牛の成長と産肉性(後藤貴文)

格之進 HP

熟成肉とチーズとワインの相関関係の探求

要約

第10回肉肉学会のテーマは、「熟成肉とチーズとワイン」。
いずれも「発酵」により美味しさが増す食品。特に日本のナチュラルチーズが生産量、種類とも増加し、その品質も国際的なレベルに育っている中で、熟成肉とチーズを合わせるとどんな化学反応が起きるのだろうか、と科学的探究心を刺激されたわけである。
また、普段の「肉肉学会」ではアルコール類は随意となっていて、参加者が持ち込んだり、お店の飲み物を個別に注文したりしているが、今回は、熟成肉とチーズのマリアージュの相手に、南澤ソムリエがワインをチョイスした(もちろん、参加者の持ち込みも自由である)。
今回のお客様は、栃木県の那須高原今牧場チーズ工房の高橋雄幸さん。高橋さんは同じくチーズ製造をされている奥様・ゆかりさんと、ご夫妻で「ギャルド・エ・ジュレ」1という称号を授与されている。高橋さんご夫妻が作るチーズは、国内の数々のチーズコンテストで優秀な成績を修め、我が国を代表するチーズ工房となっている。特に特徴的なのは、雄幸さんが主にヤギ乳のチーズを、ゆかりさんが牛乳のチーズを作りバラエティなラインナップを持っていること。今回は、季節柄、ヤギ乳のチーズは生産シーズンの前と言うことでトライできなかったが、牛乳のフレッシュチーズとウォッシュチーズを使用させていただいた。

高橋雄幸さん
南澤ソムリエと遠藤シェフ

国産ナチュラルチーズの概要と今回のチーズについて

① 国産ナチュラルチーズ

現在、国内では280を超えるナチュラルチーズ工房が設立されている。そのほとんどは、個人が設立し、チーズ製造をしている小規模工房で、酪農家がいわゆる六次化の試みとして、牧場内に設置している工房が多い。チーズは図「牛乳乳製品の製造工程」で示すように、生乳(酪農場で乳牛から搾られた乳で、殺菌前の状態)に乳酸菌や酵素(レンネット)を加えて、タンパク質であるカゼインを分離した「カード」を熟成させることで作られる乳製品であり、生乳の種類、乳酸菌やカビ等の種類、熟成期間等により多種多様な種類が生産される。
我が国で製造されているナチュラルチーズも多種多様にわたるが、消費者の嗜好等から、フレッシュ系、白カビ系、セミハード系のチーズを製造する工房が多い。
一方で、経験豊富なチーズ工房では、ウオッシュ系、青カビ系など、日本の消費者が「クセがある」と敬遠してきた種類も、消費者の嗜好にマッチした穏やかなテイストを実現するなどしてファンを増やしている。

② 今回のチーズ

今回の肉肉学会では、熟成肉と国産ナチュラルチーズとの初めてのマッチングを研究するために、ウオッシュ、青カビ、ラクレットなど、肉料理とのうま味の相互作用が期待できるチーズで、国内的にも評価の高い工房のチーズをチョイスした。

〇那須高原今牧場チーズ工房
・ゆきやなぎ(塩入り/塩なし)
・りんどう(ウオッシュ)
 第10回ALLJAPANナチュラルチーズコンテストで審査員特別賞を受賞

〇アトリエ・ド・フロマージュ 
 長野県東御市を拠点に軽井沢、東京南青山でチーズ料理のレストランも経営
・ブルーチーズ
 フランスで開催されたチーズ国際コンクールで「スーパーゴールド」受賞

〇十勝品質事業協同組合
日本チーズの新しい取組として、十勝の6工房が「型入れ」まで行った「グリーンチーズ」を受け入れて「共同熟成」2を行う工房
・十勝ラクレットモールウオッシュ

③今回のワイン

南澤ソムリエがチョイスしたワインは次の通り。
・Cremant d`Alsace Domaine Rifl  ピノブラン100%
・Cteau Bourguignons Domanine Pillot ガメイ80%、ピノノワール20%
・Ctes du Rhne Valvigneyre Maison Paret  シラー100%
・Bouegogne Chardonnay les Chazots Domaine Bonnard  シャルドネ100%

本日のメニュー

【りんどう】
温かいグジェール 熟成肉のコンビーフ  (写真1)
可愛く美味しく薫り高い一品

【十勝ラクレット】
フライシュケーゼ(写真2)

【ブルー】
熟成肉の生ハム入りケークサレ  (写真2)

【ゆきやなぎ(塩入り)】
トマト、サニーレタスと熟成肉すね肉のゼリー寄せ  (写真3)
驚きのマリアージュ!

【りんどう、ブルー、ラクレット】
 熟成肉すね、骨付きミスジ、Lボーン  (写真4、5、6、7)

【ゆきやなぎ(塩入り)、りんどう、ブルー、十勝ラクレット】
 熟成肉の骨とすじ肉からとったスープで炊いたリゾット  (写真8)

【ゆきやなぎ(塩なし)
 クレームダンジュ  (写真9)

【りんどう、ブルー、十勝ラクレット】
ベイクドチーズケイキ  (写真9)

写真1 温かいグジュール
写真2 十勝ラクレットのフライシュケーゼ、ブルーチーズのケークサレ
写真3 ゆきやなぎと熟成肉すね肉のゼリー寄せ
写真4 熟成すね肉と骨付きミスジのグリル
写真5熟成肉のグリルに載せた十勝ラクレット
写真6 十勝ラクレット、ブルーチーズ、りんどう
写真7 門崎熟成肉のLボーンのグリル
写真8 熟成肉の骨とすじからとったスープで炊いたリゾット
写真9 ゆきやなぎ(塩なし)のクレームダンジュ

参考文献

那須高原今牧場 HP
アトリエ・ド・フロマージュ
十勝品質事業協同組合 HP
国産チーズの状況(農林水産省)
各地で活躍するチーズ工房の例とチーズの種類
ナチュラルチーズの知識(一般社団法人中央酪農会議)
日本のナチュラルチーズ工房リスト(一般社団法人中央酪農会議)
ALLJAPANナチュラルチーズコンテスト(一般社団法人中央酪農会議)

格之進 HP

脚注

1 ギャルド・エ・ジュレ
「ギルド・デ・フロマジェ エ コンフレリー・ド・サントュギュゾン協会」(現在会員数は世界33カ国、3500人、会長:ローラン・バルテルミー)が授与する「会員資格」で日本では10人ほどしかいない。
「ギャルド・エ・ジュレ(Garde et Jur)」は、乳からチーズを加工する乳製品関連農業団体あるいは工場に従事し専門適格を有する管理者および従業員、卸業務あるいは小売業務において製品の選定をできるチーズ専門職、その目的にあった自らの場所で選定および熟成をおこなった高品質チーズを陳列できる商品棚を有する食料品販売業者、は資格申請を行うことができる。チーズ選定および熟成の場所は最低二年間、場所が移転された場合はさらに一年間を経過したものとする。また、チーズ保存のための場所を有するものとする。

2 共同熟成
フランスなどでは、必ずしも一戸の農家(あるいはチーズ工房)がチーズ製造の全工程を賄うわけではなく、生乳からカードを分離して型枠入れまでを行い(この段階をグリーンチーズという)、後の工程を専用のチーズ工場で行ったり、共同の熟成庫に持ち込んで、専門の「チーズ熟成士」に管理を委ねたりするケースもある。

「地域認証ラベル」を持つチーズでは個々のチーズ工房ではなく、地域のチーズとして共通の規則でチーズを製造するので、共同熟成による品質の均質化は重要な工程であり、農家にとっては、グリーンチーズとして早い段階で販売する方が経営上にリスクが小さいという、双方の利点がある。「十勝品質事業協同組合」はこのような「分担化」の魁けである。
(写真:ラクレットウォーマーと千葉さん)

今帰仁アグー

要約

第9回肉肉学会のテーマは、「今帰仁(なきじん)アグー」。
お迎えする先生は「今帰仁アグー」の導師・高田勝さん(農業生産法人有限会社 今帰仁アグー 代表)。「今帰仁アグー」の歴史的・生物学的・経済的な様々なお話しを、豊富なデータと熱意あふれる語り口でプレゼンしていただいた。
高田さんが生産する「今帰仁アグー」は後述するように、現在、沖縄県が推奨しているブランド豚「沖縄アグー豚」とは異なる豚であり、ブランドである。
その違いの多くは品種が異なるという「遺伝的な要因」によるが、飼育方法が異なるため「環境的要因」によるところも多く、更に高田さん個人の思いがからむ「歴史・文化的要因」も影響している。
今回の「肉肉学会」は今帰仁アグーと三元豚(ハーブ豚)を比較対照しながら、今帰仁アグーの特徴に迫ることとなった。

熱く語る高田勝さん

「今帰仁アグー」の概要

① 「今帰仁アグー」とは

最初に「アグ-」の整理を。沖縄で一般的に「アグーブランド豚」と認識されているものは、「沖縄県アグーブランド豚推進協議会(事務局:沖縄県畜産課)」が定義しているもので「アグーの雄と西洋豚の雌を交配したものやアグー同士を交配したもので、交配する雌豚は農場ごとに異なる」とされている。要は雄だけが「アグー」であれば良しとするもの。これは「アグー」は肉質は優れるものの雌の産子数が少なく、純粋種では生産効率が低すぎて採算性が薄いためだ。雄をアグーとすることで肉質を確保し、雌に西洋種を使うことで産子数を確保するためである(以下、本節のアグーブランドを「アグー豚」1と表記する)
これに対し「今帰仁アグー」は、味の追求だけでなく、文化資源・社会資源の継承、遺伝資源の維持を目的に、かつ経済的な自立を目指すというもので次のような特徴を持っている。

①遺伝的要因

・戦後、沖縄のアグーは西洋種との交配が進み、ほとんど原型を留めなくなっていたが、沖縄県立北部農林高校で維持されていたアグーを戻し交配により純粋種に近い形に復元した。「アグー豚」はこのアグーを原種豚としている。一方、「今帰仁アグー」は離島に保存されていた沖縄在来種を維持しているもので、DNA分析では「アグー豚」と異なり、東アジアの豚の系統に入るグループとなる。
見た目の特徴としては
・全身が黒い毛で覆われていること
・背中が大きく凹んでいること
・後ろの蹄が地についていること
などがあげられる。
アグー豚も西洋種に比べれば小型だが、今帰仁アグーは更に小型で、一般的な豚は生後180日で110kgほどになり出荷されるが、今帰仁アグーは出荷までに300~360日かかり出荷体重は80〜90kgとなる。一方で性成熟が早いため(一般の豚は200日、今帰仁アグーは100~120日)、肥育する雌は卵巣摘出をするのが通例とのこと。
なお、骨格の違いも大きく、今帰仁アグーは背骨の数(頸椎と腰椎を足した数)が19本(イノシシと同じ)だが、西洋種は改良の結果背骨が伸びているので、その数は22~23本2となっている。
高田さんが今帰仁アグーにこだわるのは、沖縄の豚は、祖霊神や精霊への供儀として使われるので「伝統的形質・形態」をもつ豚、つまり、毛が黒く(白はあの世の方角=西を指す)、イノシシと同じ背骨の数をもつ在来豚(背骨の数が異なるような非日常的な豚は使われていなかった)望ましいという歴史的な背景を大事にしたいからである。沖縄在来豚の特徴を有する今帰仁アグーを維持していくことで、沖縄の伝統・歴史の中での豚の存在意義を確認したいのである。

②環境的要因

今帰仁アグーは、その品種特性を活かすため、飼育方法も伝統的な飼育方法にこだわっている。種豚は放牧し、肥育用の豚にはnonGMO飼料のほか、泡盛粕、甘藷粕などの飼料を利用している。

③味の特徴

・一般的な豚と比べてうま味成分であるアミノ酸の量が多い。
・一般的な豚と比べてコレステロールが少ない。
・筋繊維が非常に細かく弾力があるので、噛んだときに柔らかく、さくっと切れる感じ。
・脂の融点が低いため非常に甘みが強い。

本日のメニュー

1 アグーのリエット
2 アグーの豚皮と寒締めほうれん草のシーザーサラダ
リエットで脂の美味しさを味わい、豚皮でコリコリした食感を楽しむ。

3 アグーとハーブ豚(三元豚)の食べ比べ

・パテドカンパーニュ
・粗挽きソーセージ
 パテドカンパーニュより粗挽きソーセージの方に脂のうま味がでるとの声も。
・バラ肉の煮込み
 「今帰仁アグー」と「ハーブ豚」の差が最も出た感。アグーは皮付き(沖縄ではと畜場で皮を剥がない「湯むき」で処理する)
・肩ロースのロティ
 肩ロースの大きさの違いが一目で分かるし、脂の付き方もアグーは特徴的
・ロース肉の一口カツ
 衣で肉の味が閉じ込められる。
・ロース肉のグリル
 今帰仁アグーのロース芯が小さいことが分かる。脂もしっかり付いている。

4 〆の食事
豚骨醤油らーめんと、あぶらかすちゃーはん(ラードをとった後のあぶらかすチャーハンの上品な味わい。)

参考文献

〇アグー関連
農業生産法人有限会社 今帰仁アグー HP
「今帰仁アグーの挑戦」(沖縄産業振興公社2007年3月31日発行「沖縄ベンチャースタジオタブロイド判11号」
沖縄アグー豚ブランド推進協議会HP

格之進 HP

脚注

1 アグー豚とアグーブランド豚
 繁殖に用いる種豚をアグー豚、アグー豚から生産された肥育用豚を「アグーブランド豚」いう。それぞれの生産状況は以下のとおり。アグー豚の飼養農家数、飼養頭数は増加傾向であるが、指定生産農場数(推進協議会が認定した農場)は増えていない(出荷頭数はやや増加)。
 アグー豚の飼養戸数は37戸、飼養頭数は1247頭(いずれも28年度。沖縄県調べ)
 アグーブランド豚指定生産農場は10か所、出荷頭数は約39千頭。
 アグーブランド豚指定生産農場は、10農場がそれぞれ異なるブランド名で販売している。

2 背骨の数
ほ乳類の背骨(椎骨)の数は生物種ごとに決まっていて、ヒトは17個、イノシシは19個、イノシシを改良した豚では20〜23個となっている。豚は背骨が永くなる改良をすることで肉量を増やしてきたのである。椎骨の数を決定する遺伝子(VRTN)も特定されている。

半丸の枝肉。左がハーブ豚(三元豚)右が今帰仁アグー。

しまね和草牛赤旨ビーフ

しまね和草牛「旨赤ビーフ」のパンフレット

要約

第8回肉肉学会のテーマは、「しまね和草牛旨赤ビーフ」。
聞き慣れない名称ですが、「島根県で育った和牛で草を食べて美味しくなった赤身の牛肉」ということです。
この牛肉は、独立行政法人農業研究機構中国研究センターの柴田昌宏研究員が中心となった「革新的赤身牛肉生産コンソーシアム」という研究プログラムの成果としてブランド化しようとしているもの。
春〜秋は耕作放棄地などで放牧し、放牧での牧草の採食が困難な冬期は牛舎の中で飼育するが、飼料用稲WCSやイタリアンライグラスのサイレージを給与して濃厚飼料を通常の半分程度にすることで、飼料の自給率を5割程度確保している(通常の肉用牛肥育での飼料自給率は1割程度)。
できるだけ国内で確保できる飼料を給与することでカロリーベースの自給率の高い牛肉生産を可能にするものの、和牛本来のサシ(脂肪交雑)は期待できず、脂肪の色調等も低下するため、和牛肉としての商品価値を訴求しにくい製品でもある。そこで、肉肉学会での評価が今後のマーケティング戦略の行方を占うものではないか、と研究テーマにあげた。

しまね和草牛「旨赤ビーフ」の概要

① 飼育方法の特徴

一般的な去勢和牛の肥育方法は、10か月齢程度の子牛を家畜市場から購入し、18〜20か月穀物主体の配合飼料と稲わら等の粗飼料を牛舎の中で給与し、月齢27〜30か月齢程度で出荷し、平均的な枝肉重量は約480kg、平均BMS6.7(格付等級の肉質4相当)となっている。 これに対し「旨赤ビーフ」は、農研機構・西日本農業研究センターの柴田昌宏研究員が中心となって、センター内の放牧地や島根県大田市周辺の耕作放棄地等で春〜秋の放牧と冬期の牛舎内での粗飼料給与(主に稲ホールクロップサイレージ)により肥育するというものである。 研究の規模としての出荷頭数は年間30頭程度となっており、僅かの直売事例を除けば大半は地元農協への出荷であるため、一般の牛肉と同じく格付けに応じた価格で販売しているとのこと。出荷月齢は、放牧期間の栄養摂取量等に左右されるが、28〜30か月齢程度で、格付けはB2程度となっている(一般的なホルスタイ去勢牛と同程度)。
一般に、肉用牛肥育は、穀物主体の配合飼料を給与することとされ、牧草類(野草も含め)を給与することはない。肥育前期にビタミン欠乏を防止する観点から牧草等を給与することはあるが、仕上がり期が近い肥育後期に牧草類を給与すると牧草類に含まれるカロチンにより牛肉の脂肪が黄色味を帯び、市場価格が下がる(格付け上不利になる)ことから、繊維質補給の粗飼料給与源には、牧草類ではなくカロチンを含まない稲わらを与える。
しかしながら、肥育期間中(例えば放牧等により)牧草類を給与すると、赤身肉主体で、固い肉質になるものの、カルニチン1、カルノシン2やアミノ酸などのうま味成分が豊富に含まれているなどの研究報告もあり、ヘルシーさを求める消費者から一定の評価を受けている。一方で、子牛価格の高騰が続く和牛では、A4〜5等級3の牛肉を生産しないと経済的にペイしないことから、黒毛和種を使った放牧肥育は、大学等の研究機関による事例を除いてほとんど皆無である。本ブランドも現時点では突破口を開いて経済的に自立できるものにはなっていない。

② 本日の牛肉について

今回の牛肉は、上記のような方法で肥育した黒毛和種を9月26日にと畜したもので、枝肉重量(左)126.2kg(1頭あたり枝肉重量252kg)、格付け成績はB1(BMSナンバー2なので脂肪交雑は肉質等級2に相当するが、しまり・きめで等級落ち)、60日間の枯らし熟成というもの。

本日のメニュー

1 部分肉
2 Lボーン
3 ローストビーフ

参考文献

たちすずかWCS給与による適度な脂肪交雑で良質な肉生産のための肉用牛肥育
(柴田昌宏ほか 2015)
・「国産の飼料で牛肉をつくる」
(柴田昌宏、西日本農研ニュース(No.63 2017年1月))
周年放牧肥育技術により赤身の多い牛肉を安定して生産できる
(九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域)
周年放牧による肥育牛の飼養技術(研究成果リーフレット)
格之進 HP

脚注

1 カルニチン(carnitine)
肝臓や腎臓でアミノ酸のリシンとメチオニンから合成される、ビタミン様物質の一つ。生体内ではL-カルニチンが脂肪酸をミトコンドリアの内部に運び込む役割などを果たし、脂質の代謝に重要な働きを担っている。かつてはビタミンBTとも呼ばれた。分子式C7H15NO3
2 カルノシン (carnosine)
β-アラニンとヒスチジンからなるジペプチドである。構成するヒスチジンの立体異性により、L-カルノシンとD-カルノシンが存在するが、天然のものはすべてL-カルノシンである。L-カルノシンのIUPAC組織名は N-β-アラニル-L-ヒスチジン N-β-alanyl-L-histidine である。カルノシンはヒトなどの哺乳類では、筋肉や神経組織に高濃度に存在している。生体内において酸化的ラジカル種のラジカルスカベンジャーとして働き、酸化的ストレスから保護しているといわれている
3我が国の「肉質等級」は日本食肉格付協会によって、牛、豚それぞれで定められている「流通規格」である。
食肉の流通に携わる関係者が、枝肉取引において同じイメージを持てるように、歩留等級(A~C)、肉質等級(1〜5)が定められている。黒毛和種の場合、8割がA4〜5となるが、必ずしも「味の良さ」を表している指標とは言えない。(以下は、原田理事長のプレゼンペーパー)

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