熟成肉の格之進

2017年2月1日 第9回肉肉学会の概要

今帰仁アグー

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要約

第9回肉肉学会のテーマは、「今帰仁(なきじん)アグー」。
お迎えする先生は「今帰仁アグー」の導師・高田勝さん(農業生産法人有限会社 今帰仁アグー 代表)。「今帰仁アグー」の歴史的・生物学的・経済的な様々なお話しを、豊富なデータと熱意あふれる語り口でプレゼンしていただいた。
高田さんが生産する「今帰仁アグー」は後述するように、現在、沖縄県が推奨しているブランド豚「沖縄アグー豚」とは異なる豚であり、ブランドである。
その違いの多くは品種が異なるという「遺伝的な要因」によるが、飼育方法が異なるため「環境的要因」によるところも多く、更に高田さん個人の思いがからむ「歴史・文化的要因」も影響している。
今回の「肉肉学会」は今帰仁アグーと三元豚(ハーブ豚)を比較対照しながら、今帰仁アグーの特徴に迫ることとなった。

熱く語る高田勝さん

「今帰仁アグー」の概要

① 「今帰仁アグー」とは

最初に「アグ-」の整理を。沖縄で一般的に「アグーブランド豚」と認識されているものは、「沖縄県アグーブランド豚推進協議会(事務局:沖縄県畜産課)」が定義しているもので「アグーの雄と西洋豚の雌を交配したものやアグー同士を交配したもので、交配する雌豚は農場ごとに異なる」とされている。要は雄だけが「アグー」であれば良しとするもの。これは「アグー」は肉質は優れるものの雌の産子数が少なく、純粋種では生産効率が低すぎて採算性が薄いためだ。雄をアグーとすることで肉質を確保し、雌に西洋種を使うことで産子数を確保するためである(以下、本節のアグーブランドを「アグー豚」1と表記する)
これに対し「今帰仁アグー」は、味の追求だけでなく、文化資源・社会資源の継承、遺伝資源の維持を目的に、かつ経済的な自立を目指すというもので次のような特徴を持っている。

①遺伝的要因

・戦後、沖縄のアグーは西洋種との交配が進み、ほとんど原型を留めなくなっていたが、沖縄県立北部農林高校で維持されていたアグーを戻し交配により純粋種に近い形に復元した。「アグー豚」はこのアグーを原種豚としている。一方、「今帰仁アグー」は離島に保存されていた沖縄在来種を維持しているもので、DNA分析では「アグー豚」と異なり、東アジアの豚の系統に入るグループとなる。
見た目の特徴としては
・全身が黒い毛で覆われていること
・背中が大きく凹んでいること
・後ろの蹄が地についていること
などがあげられる。
アグー豚も西洋種に比べれば小型だが、今帰仁アグーは更に小型で、一般的な豚は生後180日で110kgほどになり出荷されるが、今帰仁アグーは出荷までに300~360日かかり出荷体重は80〜90kgとなる。一方で性成熟が早いため(一般の豚は200日、今帰仁アグーは100~120日)、肥育する雌は卵巣摘出をするのが通例とのこと。
なお、骨格の違いも大きく、今帰仁アグーは背骨の数(頸椎と腰椎を足した数)が19本(イノシシと同じ)だが、西洋種は改良の結果背骨が伸びているので、その数は22~23本2となっている。
高田さんが今帰仁アグーにこだわるのは、沖縄の豚は、祖霊神や精霊への供儀として使われるので「伝統的形質・形態」をもつ豚、つまり、毛が黒く(白はあの世の方角=西を指す)、イノシシと同じ背骨の数をもつ在来豚(背骨の数が異なるような非日常的な豚は使われていなかった)望ましいという歴史的な背景を大事にしたいからである。沖縄在来豚の特徴を有する今帰仁アグーを維持していくことで、沖縄の伝統・歴史の中での豚の存在意義を確認したいのである。

②環境的要因

今帰仁アグーは、その品種特性を活かすため、飼育方法も伝統的な飼育方法にこだわっている。種豚は放牧し、肥育用の豚にはnonGMO飼料のほか、泡盛粕、甘藷粕などの飼料を利用している。

③味の特徴

・一般的な豚と比べてうま味成分であるアミノ酸の量が多い。
・一般的な豚と比べてコレステロールが少ない。
・筋繊維が非常に細かく弾力があるので、噛んだときに柔らかく、さくっと切れる感じ。
・脂の融点が低いため非常に甘みが強い。

本日のメニュー

1 アグーのリエット
2 アグーの豚皮と寒締めほうれん草のシーザーサラダ
リエットで脂の美味しさを味わい、豚皮でコリコリした食感を楽しむ。

3 アグーとハーブ豚(三元豚)の食べ比べ

・パテドカンパーニュ
・粗挽きソーセージ
 パテドカンパーニュより粗挽きソーセージの方に脂のうま味がでるとの声も。
・バラ肉の煮込み
 「今帰仁アグー」と「ハーブ豚」の差が最も出た感。アグーは皮付き(沖縄ではと畜場で皮を剥がない「湯むき」で処理する)
・肩ロースのロティ
 肩ロースの大きさの違いが一目で分かるし、脂の付き方もアグーは特徴的
・ロース肉の一口カツ
 衣で肉の味が閉じ込められる。
・ロース肉のグリル
 今帰仁アグーのロース芯が小さいことが分かる。脂もしっかり付いている。

4 〆の食事
豚骨醤油らーめんと、あぶらかすちゃーはん(ラードをとった後のあぶらかすチャーハンの上品な味わい。)

参考文献

〇アグー関連
農業生産法人有限会社 今帰仁アグー HP
「今帰仁アグーの挑戦」(沖縄産業振興公社2007年3月31日発行「沖縄ベンチャースタジオタブロイド判11号」
沖縄アグー豚ブランド推進協議会HP

格之進 HP

脚注

1 アグー豚とアグーブランド豚
 繁殖に用いる種豚をアグー豚、アグー豚から生産された肥育用豚を「アグーブランド豚」いう。それぞれの生産状況は以下のとおり。アグー豚の飼養農家数、飼養頭数は増加傾向であるが、指定生産農場数(推進協議会が認定した農場)は増えていない(出荷頭数はやや増加)。
 アグー豚の飼養戸数は37戸、飼養頭数は1247頭(いずれも28年度。沖縄県調べ)
 アグーブランド豚指定生産農場は10か所、出荷頭数は約39千頭。
 アグーブランド豚指定生産農場は、10農場がそれぞれ異なるブランド名で販売している。

2 背骨の数
ほ乳類の背骨(椎骨)の数は生物種ごとに決まっていて、ヒトは17個、イノシシは19個、イノシシを改良した豚では20〜23個となっている。豚は背骨が永くなる改良をすることで肉量を増やしてきたのである。椎骨の数を決定する遺伝子(VRTN)も特定されている。

半丸の枝肉。左がハーブ豚(三元豚)右が今帰仁アグー。


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