熟成肉の格之進

  1. 熟成肉の格之進
  2. 門崎熟成肉

東京しゃもとOmeチーズ

要約

「第33回肉肉学会」のテーマは、来年の東京オリンピック・パラリンピック開催で注目される「東京食材」の「東京しゃも」と「青梅産のチーズ」。

「東京しゃも」は東京都畜産試験場(現農林総合研究センター)が「しゃも系」の新たな品種として創り出したものだが、そのために、生産者をまとめ東京しゃもを生産し続けた「東京しゃも生産組合」の浅野良仁組合長と、東京しゃもを消費者に提供する立場から、生産者を叱咤激励されてきた、鶏料理の老舗「玉ひで」の山田耕之亮社長(玉ひで8代目)に来ていただいた。


アーティスト・浅野組合長


高岡最高顧問が山田社長を紹介。


「玉ひで」の山田社長

また、青梅市でチーズ工房「フロマージュ・デュ・テロワール」を経営されている鶴見和子さんは、フランスのチーズ大学で学んだ本格派のチーズ職人。家畜は飼育していないが、地元の生乳、自ら培養した乳酸菌でものチーズ生産へのこだわりは、生乳からチーズを作る科学的な製造過程をしっかり押さえた知識と技術の裏付けがある故である。

「テロワールとは『土着』だ」という鶴見さん、「農産物は土地が味を決める」という浅野さん。一見、「テロワール」を意識できない東京でも、土地を選び、素材を選び、風土を活かす畜産物生産を実現されている。


サイエンティスト・鶴見さん

今回は、東京しゃもと青梅チーズとのマリアージュも含め、東京食材の可能性を確認した肉肉学会となった。

学びの概要

今日のテーマは「東京しゃも」と「青梅チーズ」。一見、直接の関係はない素材のようだが、東京しゃもの生産者は西多摩地域に散在しており、本日、お招きした「東京しゃも生産組合」の浅野良仁組合長は、あきるの市在住である。また、鶴見和子氏が経営するチーズ工房「フロマージュ・デュ・テロワール」はあきるの市に隣接する青梅市にあり、どちらも同じ「テロワール」で育った食材とも言える。

1. 青梅のチーズ(フロマージュ・デュ・テロワール)

「フロマージュ・デュ・テロワール」は家畜を飼育しないチーズ工房なので、原料である牛の生乳は近隣の牧場から、ヤギ乳は長野県佐久市の「家畜改良事業団長野牧場」から購入している。チーズ原料を外部から購入する場合、都府県のチーズ工房は「飲用向け生乳」とほぼ同じ価格で購入しているのが実態1であり、2019年4月から4円程度値上げとなっている(地域によって飲用向け生乳価格は異なるが、115円〜120円/kg程度)。また、ヤギ乳価格は、関東地方のチーズ工房が依存する「家畜改良事業団長野牧場」が今春から頒布価格を上げたため、家畜を飼育しないチーズ工房では、原料乳代の値上げを商品価格に転嫁せざるを得ない状況となっていうる。
そういう状況でも、日本におけるチーズ消費量は増加傾向で推移し、チーズ工房のチーズも消費者に好評で、多くの工房が生産不足になっている。
「フロマージュ・デュ・テロワール」も曜日を決めて多種類のチーズを製造しているが、生産が追いつかない状況である。
経営者兼チーズ職人の鶴見和子さんは、フランスのチーズ大学でチーズを学んだ理論家肌のチーズ職人であり、「テロワールはいわば『土着』であり、市販のものを使ったらテロワールにならない」という持論の持ち主である。
そのため、乳酸菌は自分で起こし、ルヴァン(発酵種)を種継ぎして培養している。通常の工房ではスターターとなる乳酸菌は市販のものを購入するので、珍しいケースだが、鶴見さんは「安定しないけど面白い」と楽しんでいるようだ。さすがに凝乳酵素はフランス産のものを使っているとのこと。塩は大島産と使用しているが、これはスーパーでも買えるのでいざというときの安心感があるようだ。地元の素材としては、「フロマージュ・ドーメ」は小澤酒造の生もと酒を使ったウォッシュするが、酵母が勝ってリネンス菌がつかないそうだ(皮がオレンジ色にならない)。逆に、焼酎でウォッシュするとリネンス菌がつき綺麗な色になる。
本日、使用したチーズは、モッツアレラ、丸木の形をしたヤギのチーズ「ビュッシュ」、牛のセミハードフルム・ドーメ(アリゴに)、フロマージュ・ブランである。

2. 東京しゃも

「東京しゃも」は令和元年5月8日に「地理的表示保護制度(GI)」に登録された(令和最初の登録)。鶏肉としては2例目である。
「東京しゃも」は、江戸時代の「軍鶏鍋」の味わいを再現しようと、品種改良した軍鶏とロードアイランドレッドを交配した交雑種に、再度、軍鶏を戻し交配した品種で、軍鶏の系統が75%あるため、軍鶏の特徴がよく出ていると言われる。「本日のメニュー」に東京しゃもの「丸と体」の写真があるのでご覧になっていただきたい。
注意したいのは、「東京しゃも」は「地鶏」ではないということである。実際、飼育現場を拝見すると、東京しゃもは「ケージ飼い」2しており、「地鶏」の定義に当てはまらない。鶏の種類としては「地鶏」に該当するが、飼育方法が「地鶏」に当たらないということになる。なお、飼育日数は120日間以上となっている(通常のブロイラーは55日程度)。
浅野組合長は、もともと採卵養鶏家だが、若い頃に新規就農したという変わり種。農業に従事したことはなかったが、当時の養鶏研究者から「農産物幅所が味を決める」といわれ、東京中を歩き回って、秋川周辺で採卵経営をやろうと決めたという。東京しゃもの飼育は、東京しゃもの雛育成をしていた「東京都畜産会」の業務を引き継ぐ形で始めたもので、現在でも、浅野養鶏として採卵経営を続けつつ、東京しゃもの育成を引きうけている。
浅野さんは、多趣味な方で、絵を描くことからオペラで歌うこと、最近ではハンググライダーを楽しみ、若さ溢れる人柄である。
東京しゃものブランド確立に当たり難しかったことは、江戸時代から続いている軍鶏の味を追究することで、「玉ひで」さんの意見を聞きながら飼育管理方法を追究してきた、とのことである。
なので、今回は人形町「玉ひで」の8代目・山田耕之亮社長もお越しいただいた。老舗の味を代々受け継ぐ山田社長は「本当の鶏肉が分かる最後の男」であり、東京しゃもの育成に当たっては、東京都畜産試験場のみならず、全国の畜産試験場にもデータを当たった経験をもつ、東京しゃもの「産みの親」とも言える方である。「焼きしめる行為は地鶏には向かない」と仰る山田社長の確かな目と舌が、東京しゃもを現在のブランドに押し上げたのだ。

本日のメニュー

〇 しゃもレバームース(写真1)

〇 モッツアレラのカプレーゼ(写真2)

〇 砂肝コンフィとビュッシュフリットサラダ(写真3)

〇 しゃもソーセージとフルム・ドーメのアリゴ(写真4)

〇 手羽のポトフ(写真5)

〇 炭火焼き4種(ハツ・ポンジリ・ムネ・モモの炭火焼き(写真6〜8)


〇 しゃもの炊き込みご飯(写真9〜10)

〇 フロマージュ・ブランのクレームダンジュ(写真11)



東京しゃも(手前)とブロイラーのと体


東京しゃものコラーゲン



VRおじさんと肉おじさんのベンチャー「エナジーバーグ」の秘密の発表3


試作中の焼酎ウオッシュチーズ


脚注

1 チーズ向け乳価

我が国の生乳価格(酪農家の手取り価格)は、飲用牛乳向け、生クリーム向け、バター・脱脂粉乳向け、チーズ向けと大きく分かれていて、価格の高さは、飲用>生クリーム>バター・脱粉>チーズとなり、農家の手取り乳価は、それぞれの単価に仕向け量を乗じた加重平均単価(「プール乳価」という)となる。北海道のチーズ工房は(歴史的な経緯もあり)チーズ乳価で仕入れることが可能だが(チーズ乳価は生産コストを下回る水準なので酪農家には国からの助成金が交付される)、都府県のチーズ工房は飲用乳価あるいは「プール乳価」で仕入れている場合が多い。

2 東京しゃもの飼育方法

地理的表示(GI)で登録されている管理方法は「ケージ飼い」又は「平飼い」とされているが、いずれにしても「地鶏」とは称していない(写真は浅野養鶏場のケージ飼い)


3 エナジーバーグ

この日は、「エナジーバーグ」の秘密のお披露目があった。エナジーバーグは、肉おじさん(千葉祐士事務局長)とVRおじさん(藤井直敬理事)という肉肉学会コンビが開発した「味覚を通じて脳に働きかける体験型食品」で、「格之進『金格ハンバーグ』+玉露パウダー+くるみ」 というスーパーな組み合わせで実現したハンバーグなのだ。

参考文献

山形村短角牛を支える柿木畜産の志に学ぶ

要約


開会の挨拶は江渡副理事長から。

「第32回肉肉学会」のテーマは「岩手短角牛」。和牛4品種のひとつ「日本短角種」は、岩手県をルーツにしており、今回は、岩手県でも日本短角種の故郷ともいえる山形村(現久慈市)の柿木畜産代表の柿木敏由貴さんに来ていただいた。


「山形村の短角牛」を熱く語る柿木社長

柿木さんは県立農業大学校在学時に他の牛を学んで、短角種の良さに気がついたという。もともと短角しかいない土地なのに、短角は売れない、儲からないため、地域では黒毛和種への転換が進んでいく。「これだけ素敵なのになんで売れないんだ」と悩んできたが、飼料は全て国産原料であること等にこだわって経営を続けてきた結果、ようやく「赤身の美味しさ」に気づいてもらえた、とのこと。

柿木畜産の母牛は50頭。夏の間は共同の放牧地で親子放牧させ、交配は牧牛(まきうし)による自然交配。独自の「CSA」に取組み、消費者への直接販売を行う。

本日の牛肉は、柿木畜産生産の29か月齢の去勢牛。2017年2月に柿木畜産の牛舎で生まれ、5月から10月まで放牧地で美味しい草をいっぱい食べて過ごしたあと牛舎で国産飼料だけを食べて2019年6月にと畜された牛です。


全日本・食学会・高岡副理事長

また、山形村は平庭高原での闘牛大会が地域の伝統的な行事として根付いており、柿木畜産でも伝統文化維持のために闘牛用の雄牛を飼育し、年に数回行われる闘牛大会で勇姿を見せているそうです。

恒例の「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ「堀井格之進のUSHISOBAは「山形村短角牛・ばら肉時雨煮そば」。


堀井格之進ブラザーズ

学びの概要

今日のテーマは「日本短角種1」。前回の「見島牛」で、「和牛」と表示できるのは黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4品種と、これらの種間雑種ということを学んだが、その一画を学ぶ機会となった。

日本短角種は旧南部藩時代に沿岸と内陸を結ぶ「塩の道」の物資輸送に使われていた南部牛に、明治初期に米国や英国から導入されたショートホーン種又はデイリー・ショートホーン種の交配を重ねて作出された品種である。

日本短角種は放牧適性に優れており、繁殖牛は春から秋にかけて共同草地等に放牧され、牧(まき)牛により自然交配が行われる。秋の終わりに牛舎に戻り春がくるまで牛舎の中で飼育され、その間に子牛を産む。この飼育サイクルは「夏山冬里方式」と言われ、夏の稲作との複合農業と強く結びついた飼育方法であった。

しかしながら、複合経営の規模では稲作、養牛とも中途半端であり、ハウス野菜作等への専業化が進むにつれ、短角種飼育農家は減少していった。更に牛肉の輸入自由化等により競争力の高い黒毛和種への転換(日本短角種と黒毛和種との交配による「短黒和牛」も含む)が拍車をかけ、現在の日本短角種の繁殖は北上山系に限られる状況となっている。

なお、日本短角種は岩手県が主要な生産地だが、青森県、秋田県、北海道などでも飼育されている。

北上山地を繁殖基地としている日本短角牛は、県内各地で肥育されていたが、現在では久慈、岩泉、二戸、盛岡の4地域で肥育されており2、それぞれ給与飼料等の違いから肉質も若干異なるといわれているが、去勢牛でもほぼ全てがA2あるいはB2と格付けされる(Aの方が割合は多い)。換言すれば、和牛といってもホルスタイン去勢牛と同程度の肉質だということになる。このため、牛肉自由化(平成3年度)以降は、輸入牛肉等との競合にさらされ、かつ「夏山冬里」生産方式のため、秋に子牛が一斉に市場出荷され肥育後、同じ時期に出荷される流通特性から「定時定量販売」が困難な商品として一般マーケットから閉め出されてしまうことになった。このため、一部の生協や飲食店以外ではお目にかかることのできない牛肉となってしまったのである。

近年の「赤身肉ブーム」で「日本短角種」の美味しさが見直されつつあるが、大幅に減少した雌牛頭数の回復は難しく「希少価値のある牛肉」として存在している。

柿木社長は、農業学校で他の牛を学んだときに、改めて短角牛の良さに気がついたという。実家に戻り短角を飼いながらも「これだけ素敵な牛なのになんで売れないんだ」と悩んだ時期もあったが、今になって、赤身の美味しさに気がついてもらえたと思う。日の目をみない短角牛のためにビデオを作ったり、CSA(Community Supported Agriculture3)による消費者への直接契約販売も行ったりしている。牛肉は、自分が食べたい、家族や友人に勧めたいという想いで生産している。黒毛和種の方が収入は上がるが、自分はそれをしない。

柿木畜産では50頭の繁殖雌牛を飼育し子牛を生産しており、自然交配用に雄も1頭飼育している。標高700~800mの高原で、放牧できない冬の間の牧草、肥育用のデントコーンまで自給生産している。自然交配なので、お産は冬期となり、気温はマイナス20℃にもなるが、寒い時期は雑菌がないので病気のリスクが小さい。産後のひだちが悪いときは牛湯のお灸を据えることもある。

肥育の飼料は国産100%にこだわっている。日本短角種は月齢で味が変わってくるし。個体差が大きい。28か月齢から脂が乗ってくる。今日の牛は29か月齢なので自信がある。軽やかな脂と赤身の味の濃さ、引きの良さがある。肥育の出荷頭数は年60頭で、直接販売を基本にしている。

平庭高原の闘牛大会にも闘牛と一緒に参加している。闘牛の牛は雄牛で、闘牛のためだけに飼っている。飼料代など持ち出しが多く一銭にもならないが、地域の伝統として守っていきたいとのこと。


闘牛界の牛若丸
柿木 敏由貴
チーム最年少にしてエース。
軽やかに舞うその姿は会場を魅了する
(岩手平庭高原闘牛大会HP)

USHISOBA

「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ企画「牛そば」。
今回の企画は「短角牛バラ肉の時雨煮茶漬け」。「バラ脂の薫りと旨味をどのように引き出すか」とテーマとしたそうです。
麺は更科そば、出汁は昆布と鯖出汁。温かい蕎麦にして薫りを立てやすくし、お茶漬けのような出汁の旨さを前面に出さず、バラ脂の旨味を前面に出すようにした。バラ肉と出汁のブリッジに山椒とゴボウを。

本日のメニュー

〇 ブレザオラ&モルタデラ(写真1)

〇 リブロースステーキ(写真2)

〇 外バラ焼肉スタイル(写真3)

〇 ランプ炭火焼き(写真4)

〇 いのぶたパテドカンパーニュ(三良坂フロマージュのいのぶた)(写真5)

〇 牛そば 外バラ時雨煮(写真6)


[caption id="attachment_2822" align="alignleft" width="320"] 柿木畜産短角牛のリブロース[/caption] [caption id="attachment_2823" align="alignright" width="320"] 柿木畜産短角牛のランプR[/caption]


[caption id="attachment_2824" align="alignleft" width="320"] 山形村の共同放牧場での日本短角種の放牧風景。[/caption] [caption id="attachment_2825" align="alignright" width="320"] 平庭高原の闘牛大会で、闘牛を引く柿木さん[/caption]


脚注

1 日本短角種

2 岩手県での短角種(肥育地による区分)

生産地(肥育地)

飼料の特徴

久慈市

国内で生産された濃厚飼料だけを原料とした配合飼料を給与

岩泉町

市販の配合飼料を給与

二戸市

市販の配合飼料及び豆腐製造粕を給与

盛岡市

市販の配合飼料及びビール製造粕を給与

3 CSA(Community Supported Agriculture)

生産者と消費者が連携し、前払いによる農畜産物の契約を通じて相互に支え合う仕組み。CSAは米国で1980年代に始まり、現在では欧米を中心に世界的な広がりをみせている。

参考文献

天然記念物見島牛を食す

要約

「第31回肉肉学会」のテーマは「見島牛」。生産地の山口県萩市・見島では「天然記念物」として繁殖用の雌牛や雄牛が飼育されているが、廃用となった雌牛や去勢子牛は、本土に運ばれて「肉牛」として飼い直しされ、見島を離れた見島牛は食べることができる。


開会の挨拶は江渡副理事長から。

今回は、この稀少な「見島牛」の雌牛をいただく機会となった。見島牛を萩市内で飼い直ししたのは、萩見蘭牧場の藤井照雄社長。

[caption id="attachment_2773" align="alignright" width="350"] 「見島牛」愛を熱く語る藤井社長[/caption]

「見蘭牛」とは、ホルスタインの雌牛に見島牛の精液を交配した交雑種で、ホルスタインの体格と見島牛のサシの入りの良さを狙った「いいとこ取り」の牛。「見蘭牧場」の主力はこの「見蘭牛」で、年間に数頭しか見島を出ることがない「見島牛」の経産牛や去勢子牛は、成長が遅く経済的には全くペイしないため、藤井社長の「見島牛愛」の賜として出荷されるもの。

今回の牛は見蘭牧場で13か月間飼い直しされた6歳7か月齢の雌牛で出産記録がない「未経産牛」。藤井社長は「見蘭牧場」よりさきに「みどりや」という食肉販売・加工会社を経営されていて、直営のレストランで「見蘭牛」を扱っている。このような見島牛販売流通のプロだからこそ、生産まで担うことが可能と言える。

わざわざ沖縄から来ていただいた高田さんは「アグーの回」でも来ていただいたが、見島牛と同様日本の在来種である「口之島牛」の飼育者。この日は日本に2種しか残っていない「在来種」の2大巨頭が顔を合わせた日ともなった。

「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ「堀井格之進のUSHISOBは「南いわて牛の煮こごりそば」。


[caption id="attachment_2774" align="alignleft" width="350"] 沖縄の高田勝さん[/caption] [caption id="attachment_2775" align="alignright" width="350"] 堀井良教社長[/caption]


学びの概要

[caption id="attachment_2781" align="alignright" width="350"] 牛の日本在来種2大巨頭と肉おじさん[/caption]

今日のテーマは「見島牛※1」。肉肉学会の原田理事長は30年以上の農林水産省勤務でも「見島牛」を見たことはないし、もちろん食べたこともなかったとのこと。それが「肉肉学会」で実現することになるとは!今回のゲストは永い間、「見島牛」を見守ってきた藤井輝雄氏((株)みどりや・(有)萩見蘭牧場代表取締役)。

藤井社長は、萩市内で「みどりや」という食肉販売店を経営する傍ら、見島牛の雄とホルスタインの雌を掛け合わせた交雑種「見蘭牛」を肥育するために「萩見蘭牧場」を建設・運営している。そこで肥育している300頭あまりの見蘭牛は自社の精肉店や焼肉レストランで提供しているが、わずかながら、見島牛の去勢牛や経産牛を肥育している。

藤井社長は、ある会社が起こした食品偽装事件をきっかけに、牛の生産から販売まで自分でまかなうスタイルにしたとのことだが、牛を1頭売り切るのは大変なので加工食品も製造して、無駄のないようにしている、とのこと。

外国種の血が全く入ってない「見島牛」は我が国固有の牛品種として、見島※2という地域と合わせた「天然記念物」であり、見島ではと畜して食べるということはできないが、廃用牛や種雄牛としない雄子牛は去勢を前提に島外で肥育し、牛肉として食べることが可能なのだ。とはいえ、雄でさえ、体高が130cm 程度と小型で増体が悪い見島牛。雄の生時体重は16kg、10か月で 150kg、出荷できるまでに4才近く飼育する必要があるそうで、肉用牛としては経済性が低すぎ、そのままではペイできるような牛肉とはならない。このため、萩見蘭牧場で肥育されているわずかな去勢と経産雌牛は経済性を度外視して肥育しているといえる。

実は、肉肉学会の肉おじさんと牛おじさんが今年の4月に萩にお邪魔したときに出会った藤井社長さんに、16歳1か月齢の見島牛をご紹介いただき(食べさせていただいたということ)、そのうま味のある赤身とバランスのとれたサシの、なんとも言えない味わいに驚愕したという出会いがきっかけで、今回の肉肉学会でのテーマが決まったのでした。

「見島」は萩市の沖に浮かぶ絶海の孤島!見島牛は、見島の小さな田んぼを黙々と耕してきた見島にしかいない牛で現在では80頭程度となっている。昭和3年に見島にいる見島牛が国の天然記念物に指定されたが、その理由は、外国の品種の血が入っていない我が国在来種であるから。

それにしても、肉用牛としての改良を一切してない見島牛になぜ、これほどの強いサシを入れる遺伝力が備わっているのか?見島牛と同じく、外国種の血を入れてない在来種の「口之島牛」は、それほどサシを入れる力はないので、なんとも不思議な存在感のある牛である。そんな素晴らしい見島牛なのに「和牛」と定義される黒毛和種など4品種には含まれていないため、見島牛の去勢牛や経産牛は、販売時に「和牛」という表示※3をすることができないという矛盾もある。

本日の「見島牛」は6歳7か月齢の雌牛。分娩記録がないので未経産らしい(これまた珍しい)。萩見蘭牧場で13か月間飼い直し(肥育)している。

USHISOBA

「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ企画「牛そば」。今回の企画は見島牛ではなく、格之進の「いわて南牛」を煮こごりにして、オリーブオイル、すだち、青ネギを添えた逸品。

本日のメニュー

〇 シャルキュトリとミックスリーフのサラダ(写真1)

〇 見欄牛サーロインステーキ(写真2)

〇 見欄牛内モモのローストビーフ&炭火焼き(写真3)

〇 見島牛肩ロースグリル(写真4)

〇 門崎熟成肉のペンネミートソース(写真5)

〇 牛そば(写真6)


[caption id="attachment_2782" align="alignleft" width="320"] 見島牛のサーロイン[/caption] [caption id="attachment_2783" align="alignright" width="320"] 見島牛の肩ロース[/caption]


在来種「見島牛」と岩手産黒毛和種の雌牛同士のサーロイン比べ。ロース芯の大きさの違いが良く分かる。この見島牛は16歳1か月令の経産牛
(今回の肉とは異なる)


増体系の黒毛和牛と見蘭牛、見島牛の歩留まり比較。枝肉歩留まりは黒毛67%、見蘭62%、見島牛56%。正肉で黒毛50、見蘭45、見島32%。

脚注

1 見島

「見島牛」を飼育する農家は見島に7戸しかおらず島内では天然記念物のため、経済動物として意識されていない。永く耕耘用の役畜として飼われてきたため、前躯に比べ後躯が貧弱で、枝肉重量も期待できない。

2 見島牛

「見島」は牛のかたちに見える農業と漁業の島。海上自衛隊のレーダー基地のある「防人の島」でもある。島内には小さな田んぼがたくさんあり、ため池が散在する。

3 和牛表示のルール

牛肉の小売り時等に「品種」を表示する場合は、「牛トレーサビリィ法」に基づいた品種分類に従う必要がある。現在では左表のように、「和牛」表示が可能なのは、和牛4品種の純粋種か、4品種間の交雑種である。

参考文献

2017年9月30日(土) 第1回肉肉学会カンファレンス開催報告

肉肉学会が主催する、第1回肉肉学会カンファレンスを、東京大学先端科学技術研究センター(駒場リサーチキャンパス内)にて開催しました。

毎月、格之進で開催している肉肉学会は、正式には「肉肉学会研究会」であり、それと共に、年1回の会合として「肉肉学会カンファレンス」を開催しています。

記念すべき第1回のカンファレンスは、講演、アンカンファレンス、懇親会(BBQ)と盛りだくさんの中、研究者、生産者、料理人、消費者ら多様な分野の人たちが分け隔てなく議論する場となりました。

最初に、肉肉学会 原田理事長、稲見 副理事長による挨拶があり、その後に肉の研究者による招待講演、アンカンファレンス、夕方からBBQというスケジュールでした。

最初に、個人活動から起業して培養肉(純肉、クリーン・ミート)の開発・普及に取り組むインテグリカルチャー(株)の羽生さんの招待講演がありました。


その後、「肉肉学会への期待」と題して、江渡 副理事長、人形町今半 高岡、格之進 千葉 事務局長、調理シミュレータを開発する加藤さん、美味しさの研究をする河合さん、食研究の和田先生、食VRの鳴海さん、触覚からの食という渡邊淳司さん、生産者のための食の流通をつくるベンチャー、プラネット・テーブルの菊池さん、磯沼牧場の磯沼さんによるトークがありました。

途中のおやつ休憩では、なんと今半の揚げたてコロッケの差し入れがありました。揚げたてのおいしさに、参加者はみな驚いていました。

続くアンカンファレンスは、江渡 理事長がメインファシリテーターとなり、進行しました。
これまでの講演を聞きながら、参加者はみなポストイットに気になるテーマや話したいテーマをそれぞれ書いていきます。

そのポストイットを集約することで議題を決め、その議題ごとに希望者がグループ分けされ、議論を開始します。

アンカンファレンスとは、話すテーマを参加者で自由に決める議論の方法です。
まず先ほどのポストイットを、近いテーマごとに模造紙に分類していきます。
今回はおおよそ6つのグループに分け、それぞれのグループの模造紙1枚に先ほどのポストイットを貼ります。

テーマは、以下のようになりました。
・チーム1「純肉」
・チーム2「美味しいのメカニズム(心理・脳)」
・チーム3「美味しさの化学・科学」
・チーム4「新調理法」
・チーム5「五感と美味しさ」
・チーム6「消費者と生産」

各チームには予め決められたファシリテーターがひとり付きます。
長倉克枝さんが、チーム1のファシリテーターとなりました。
ファシリテーター以外は、議論中に別のテーマに移動することも自由となっています。
最初は様子を見つつ、自分が参加をしたいチームを決めます。
おおよそ1チームが5〜6人に分かれ、セッションがスタート。


1セッションは20分。
チーム内で進行役、書記、タイムキーパー、発表役を決めて、議論を始めます。
「何を話すか」から、予めあるポストイットを見ながら話し合います。
20分はとても短く、気を抜くとあっという間に終わってしまいます。

チーム1は、羽生氏の基調講演にあった「純肉」がテーマ。純肉は培養細胞によって作る肉。
量産化によって肉の生産エネルギーを大幅に下げて環境負荷を軽減できる可能性があります。
背景には、3Dプリンターの普及とメイカームーブメントからパーソナルファブリケーションへと進んだ流れと同様に、細胞培養などのバイオテクノロジーを自宅で気軽にできるようになるというバイオテックのカルチャーがあります。
一方で、純肉の社会受容やバイオテクノロジーを気軽に利用することへの倫理的な懸念もあります。
そこで、チーム1では、社会受容について話し合いました。
ただ、ルール作りや倫理的観点など、社会受容に向けて考慮、整備することが多い中で、環境負荷軽減以外に、消費者にとって純肉のメリットはあるのでしょうか。
そこで、稲見先生から「パーソナルファブ肉」という単語が飛び出しました。
自分で好みにあった肉を作れるというわけです。これを重要なメリットとして提示することにしました。

これらの議論をまとめて、発表役が最後にチームごとに発表をしました。

興味深かったのは、チーム6。
「消費者と生産」がテーマですが、マーケティングや情報発信、リスクコミュニケーションのようなソフト面の要素が、ポストイットには多く含まれていました。
このチームが導き出した結論は「FOOD5.1」。
プラネット・テーブルの菊池さんのトークでは、現在の大量生産・大量消費型の食品生産・流通を「FOOD4.0」として、その次の生産者から消費者へ必要な分だけ無駄なコストなく時間のロスなく流通をする流通改革を含め「FOOD5.0」という概念を打ち出していました。
それをさらにアップデートしたものがFOOD5.1という、ウェルビーイング的観点が含まれていたものでした。

ポストイットを使ったワークショップは多数企画されていますが、アンカンファレンスは他とは一風異なります。
テーマを自分で決め、かつどのチームに参加するかも自分で決めることから、参加意識が高まります。
また、20分間という1セッションの時間の短さが、無駄な話はできないという緊張感を高め、結果として短時間に実のある議論を成り立たせていたように思います。
とても充実したアンカンファレンスとなりました。

アンカンファレンスのあとは懇親会BBQ。
格之進のハンバーグ、ステーキ、今半のすき焼き肉での焼きしゃぶを、千葉さんと高岡さんが焼くという贅沢極まるBBQでした。最高でした。

肉肉学会は「肉」という共通項で研究者、生産者、料理人、消費者ら多様な分野の人たちが集まってきています。
同じ愛する対象があると、たとえ所属する領域が異なっていたとしても、コミュニケーションが成り立つのだということが新しい気づきでした。


※ちなみに、みんながワインクーラー(新品)だと思って使っていた容器は、実は炭の火消しだということが、後で気がつきました(笑)
※本報告は、長倉克枝氏による「第1回肉肉学会カンファレンス開催報告」を、許可を得た上で修正し、執筆しています。ありがとうございます。

タイバンコクで肉おじさんの和牛ショーが大盛り上がり!!

突然ですが『佐野ひろ』さんをご存知ですか?

佐野ひろさんとはタイでご活躍されている日本の俳優さんです。
タイでのCM出演依頼をきっかけにタイに渡られ、さらに映像会社を設立した方でご自身で企画・制作・出演している『すごいジャパン』というタイの旅行番組は放送後、取り上げられた日本の観光地にタイの方々が多数訪れるという本当に『すごい』番組なんです。

その『すごいジャパン』に昨年、肉おじさん・格之進を取り上げていただきました。
Youtubeでアップされた動画の視聴回数はなんと100万回を超えております!『すごい』!!

そんな『すごいジャパン』のイベントが10月25日から27日までタイバンコクにて開催されました!
さまざまな日本の食のプロフェッショナルが一堂に会するコラボイベント。

会場はThe Mall Bangkapiというとても大きなショッピングモールで日本にもよくあるような、1階から上の階まで吹き抜けになっており、1階にあるステージを各階から取り囲むように見ることができるようになっています。

そのイベントに、我らが肉おじさんが『和牛』のプロフェッショナルとして出演しました!
和牛の解体ショーは、会場中が人・人・人で溢れ、大盛況となりました!
『和牛』ひいては『日本の食』にこんなにも興味を持っていただいていることがとても嬉しいです!

以前にYoutubeで肉おじさん・格之進をご覧いただいたバンコクの方々へも実際に『和牛』の素晴らしさを体験していただくことができ、肉おじさん自体もかなりの手ごたえを感じていたようです。

これをきっかけにさらにタイの方々に『和牛』そして『日本の食』に興味を持っていただけると嬉しいですね。

オリーブ牛 脂肪の質からみえる新たな旨み

第30回肉肉学会の概要

「第30回肉肉学会」のテーマは「オリーブ牛」。

香川県の銘柄牛だが、県のブランド牛というより、アマニ油給与牛のように牛肉の資質を考えることを目的とし、「オリーブ牛」の生産・流通・消費を支える人々、特に流通・販売に携わる人々からみたオリーブ牛を学びました。このため、本日のプレゼンテーターは生産者ではなく、肉肉学会の常連さんであり高松市内でステーキハウス「一牛(いちご)」を経営する森由樹博氏にお願いしました。


「オリーブ牛」は香川県産の牛肉としてブランド化されていますが、もともと、香川県のブランド牛肉は永く「讃岐牛」でした。9年前に小豆島の和牛肥育農家である石井正樹さんが、小豆島名産のオリーブの搾油カスを飼料として使えないものか、と挑戦したのです。しかし、オリーブの搾油カスは苦くて、牛が食べません。そこで、天日干しにするなどして乾燥させたうえで55度くらいの温度で更に乾燥させるとメイラード反応により牛の食い込み、増体とも良くなる飼料に生まれ変わったのでした。

また、オリーブの搾油カスを飼料として給与することで、牛肉の筋肉間脂肪のオレイン酸含量が増加して、食後のくちどけが良い牛肉になることが分かり、「オリーブ牛」としてデビューすることになったわけです。「オリーブ〜搾油カス〜牛〜堆肥」という循環型農業の確立にも繋がり、今では、香川県を代表する食のブランドに成長しました。


学びの概要

1. オリーブ牛の現状

オリーブ牛のブランド化から今年で9年になる。その出荷頭数は毎年、増加しており、30年度には2335頭となっている。目標は3000頭で、農林水産省の補助事業等による牛舎の建設などによる規模拡大を進めている生産者もいる。ただ、香川県は、黒毛和種の繁殖地域ではないため、県外の家畜市場からの素牛購入に頼る面が大きく、子牛価格が高騰している現状では、大幅な出荷頭数の増加は難しいだろう。

オリーブ牛の出荷は香川県内が主体で「地元のブランドは、まず地元で食べよう」という意識をもつ流通販売業者さんが多いようだ。関西圏にも出荷するが、首都圏はまだ少ないとのこと。芝浦市場にも上場されていないので、首都圏での認知度の向上、ブランド作りが課題となっている。

「オリーブ牛」の確立には、香川県内の肉屋さん(卸)の力が大きく、本日も参加されていたフタガワフーズさん、ササハラさんで4割のシェアを持っている。

2. オリーブ牛の誕生

オリーブ牛の生みの親は、現在、「小豆島オリーブ牛研究会会長」を務めておられる石井正樹さん。小豆島の特産であるオリーブの搾油カスが畑の肥料にしかならず産業廃棄物としてかなりの部分が処理されていたことに目をつけ、肥育用の飼料化を試みた。ところが、搾油カス(オリーブの種の殻)は苦くて、牛も食べようとしなかった。そこで、海岸で天日干ししたあと、55度くらいの温度で乾燥させると、メイラード反応により、搾油カスに香ばしい香りがつき、牛の嗜好性が大きく改善されることが分かった。

石井さんは、この成果を小豆島だけにとどめず、香川県全体で共有できるようにした。このため、香川県下の肥育農家のほとんどが、オリーブ飼料を給与するようになり「讃岐牛」から「オリーブ牛」への大転換が進んだのである。1

オリーブ牛は、和牛平均と比べ、うまみ成分であるグルタミン酸が1.5倍、ペプチド総量が1.4倍、抗酸化成分であるカルノチンが2倍、アンセリンが1.7倍含まれていることが分かっている。

こうした脂質の良さが評価され、2017年10月に宮城県で開催された「第11回全国和牛能力共進会」では、9区(枝肉の部)でオレイン酸を含む一価不飽和脂肪酸の含有量が65.2と最も高かった塩田清勝さんの出品牛が「脂肪の質賞」を受賞した。2

3. 今日の展開

「肉肉学会」としては「オリーブ牛」を単なる「県産ブランド牛」ではなく、「肉肉学会」の一連のテーマでもある一価不飽和脂肪酸と肉のうま味との関係を考える素材として位置付けている。

以前からアマニ油を給与した牛・豚・鶏肉の研究をしており、その延長として「オリーブ牛」を体験した。本日の感想でも「脂がさらっとしていて美味しかった」「雑味がない肉」などの声があり、また、普段の「肉肉学会」ではあまり経験のない味噌との組み合わせなども好評であった。

なにより、「肉肉学会」の常連さんでもある森由樹博さんが、「森ガールズ」を引き連れて、自らの屋号をつけた子牛3を紹介するなどの「心意気」に感動された参加者が多かった。


本日のメニュー

〇 内ヒラ(内モモ)のステーキ(写真1)
〇 チマキ(スネ)の塩煮込みスープ(写真2)
  ※スネを2日間炊いた上記のスープから濾した脂(油)
〇 低温しゃぶしゃぶとほうれん草のサラダ(写真3)
  (しゃぶしゃぶの部位は「三日月」)
〇 三角バラの西京味噌漬け(写真4)
〇 リブロースの牛肉炊き込みご飯(写真5)

本日の牛肉は、小豆島生まれ、ササハラオリーブファーム育ちの30か月齢去勢牛

脚注

1 オリーブ牛認証の要件

2 全国和牛能力共進会・宮城大会での成績

3 「一牛」という名の牛

参考文献

オリーブ牛HP
ステーキハウス 一牛HP
株式会社ササハラ
フタガワフーズHP
格之進HP

本日のお料理

お肉のイノベーション冷凍燻製技術を公開

第24回肉肉学会の概要

「第29回肉肉学会」のテーマは「冷凍燻製技術」。
格之進の千葉さんが、かねてから岩手県工業技術センター、株式会社北陽さんと温めてきた企画が実現しました。

岩手県工業技術センターと格之進の共同研究では、一関産・岩手県産の素材を使ったハンバーグを製造する中で、燻煙用のチップまで岩手県産の木材チップを利用することにし、様々なチップを、条件を変えて薫製香を調べていった結果、ハンバーグを冷凍して薫製1した方が香りの付きが良いことが分かったのです。

一般に「燻製(薫製)」は燻煙の温度が高いほど早く仕上がり、スモークサーモンなど水産物に多く使われる「冷燻」は数日間を要することがあります。冷凍での燻煙技術を可能にしたのが、「北陽」の電子スモーク技術です。「電子スモーク」2とは、燻煙を高電圧でイオン化しマイナスイオン化した燻煙粒子が、陽極にある食材に吸着されるというもの。「北陽」の電子スモーク装置「スモっち燻」だと、通常の燻煙装置で数時間かかるのが5〜10分と大幅な時間短縮が可能になり、コストも抑えられるというわけです。千葉さんいわく「燻製の妖精」上田課長のプレゼンも興味シンシンの内容でした。

今日の食べ並べは、電子スモークをしたハンバーグや牛肉各部位を「薫製」と「非薫製」。薫製の香りに包まれた幸せな時間でした。
「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ「堀井格之進のUSHISOBは「青椒肉絲」風の挽きぐるみ(全粉層のそば)。たけのこと木の芽を添えて。


肉おじさんはプレゼンも担当(緊張気味)


肉おじさんと薫製3兄弟


北陽北海道支社
上田洋介課長


堀井良教社長

学びの概要

[caption id="attachment_2704" align="alignright" width="240"] 本日のお肉と江渡副理事長[/caption]

「薫製」は様々な食品で行われており、コールドチェーンが発達した現在では、保存技術というだけでなく「燻製香を楽しむ」という役割が中心となってきました。牛肉では、熟成肉に注目が集まる中、ビーフジャーキー等の乾燥製品は古くからあるものの、薫製させた製品は開発されてきませんでした。

千葉さんは「香りをコントロールできたら商品価値が上がる」と、(株)格之進と岩手県工業技術センターとの共同研究として「県産素材を活用した新規畜肉加工品の開発」を行い「県産スモークチップを活用した新規冷凍ハンバーグの開発」に至ったそうです。

1.燻製食品の評価法と効率的評価法の開発

リンゴ、ブナ、サクラ、オニグルミなど様々な県産チップ材を用いて燻製チップを評価するとともに食材に付いた燻製香を定量的に測定する方法を開発しました。そうして食材によって最適となるチップの配合比率や水分率を求めていきます。赤身と霜降りでは燻製香の付き方が異なり、霜降り(脂)の方が香りがつきやすいとのことです。

2.冷凍燻製技術の開発

燻製ハンバーグの開発を進めるなかで、「通常のパテより凍結したパテを燻製した方が燻製香の付きが良い」という現象が発見されました。凍結状態のまま燻製することは製造上の衛生リスクも低減するなど、産業上の利用価値が高いといえ、冷凍燻製技術の開発は、今回の燻製ハンバーグの商品化に大きく寄与しました。一方で、このメカニズムは十分、解明されていないようで一層の研究が待たれます。

3.静電気燻製技術の利用(電子スモーク)

燻製ハンバーグの商品化には短時間で効果的な燻製香を付与する技術が欠かせません。そこでタッグを組んだのが(株)北陽さん。北陽が開発した「電子スモーク装置」は、長時間かけて行われてきた、従来の冷燻や温燻を、常温で5〜10分で冷くんできるという装置です。

電子スモーク装置内で高電圧によりプラスとマイナスに帯電した粒子が煙を誘因し、マイナスに帯電した燻煙がプラスに帯電した食材に付着するという原理です。食材に付着した燻煙成分は、食材を密封することにより食材の内部に浸透していきます。


このようにして誕生したのが「薫格ハンバーグ」です。今回の肉肉学会では、薫格ハンバーグと、大人気の「金格ハンバーグ」を食べ並べ(どちらも美味しいとの声多数ですが)、燻製香のするハンバーグという未知の体験を楽しみました。

また、赤身や霜降りなど、各部位で燻製したものとそうでないものを食べ並べ、「燻製香は脂肪の多い肉に付きやすい」というエビデンスを実感することとなりました。この日は青森県アビタニアジャージーファームの安原さんが持ってきてくださった7歳超えのジャージー去勢牛のロースも燻製・非燻製として味わいました。

USHISOBA

「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ企画「牛そば」。今回の企画は「青椒肉絲」風の牛肉に、挽きぐるみ(全層粉)のそばで。季節の味のタケノコと木の芽が添えられてます。

本日のメニュー
(ハンバーグと牛肉各部位の食べ並べ:薫製×非薫製)

〇 シャルキュトリとシーザーサラダ(写真1)
〇 薫格ハンバーグ × 金格ハンバーグ(写真2)
〇 稀少部位「メガネ肉」(写真3)
〇 国産牛霜降り「三角バラ」(写真4)
〇 国産牛赤身「ランプ」(写真5)
〇 黒毛和牛霜降り「ソトバラ」(写真6)
〇 アビタニアファームのジャージー牛「ロース」(本ページ)
〇 牛そば(写真7)


本日のお肉:同じ部位の「薫製」と「非薫製」

[caption id="attachment_2705" align="alignleft" width="320"] アビタニアファームのロース(薫製)[/caption] [caption id="attachment_2707" align="alignright" width="320"] アビタニアファームのロース(非薫製)[/caption]

脚注

1.冷凍燻製技術

通常のパテより凍結したパテの方が燻製香の付きが良いという現象が確認された。凍結状態のまま薫製することは製造上も衛生上のメリットがある。ただ、このメカニズムは十分解明されていない。

2.静電気燻製(電子スモーク)

イオン化した燻煙を食材に付着させるので、食材を加熱せずに生のままで(冷凍でも)燻製処理できるため、食品の乾燥を防ぎ、短時間処理で空気に触れる時間も短縮化でき衛生的というメリットがある。

参考文献

岩手県工業技術センターHP:「最新成果集2017:30燻製食品評価法と効率的燻製法の開発」
総本家更科堀井HP
格之進HP

本日のお料理


1 シャルキュトリのサラダ


2 薫格ハンバーグ


2 金格ハンバーグ


3 薫製メガネ肉


3非薫製メガネ肉


4 薫製三角バラ


4 非薫製三角バラ)


5 薫製ランプ


5 非薫製ランプ


6 薫製ソトバラ


6 非薫製ソトバラ


7 牛そば

赤城牛・鳥山畜産の哲学に学ぶ

第28回肉肉学会の概要

「第28回肉肉学会」のテーマは「赤城牛・鳥山畜産の哲学に学ぶ」。

「鳥山畜産」は来年で操業60周年を迎える群馬県のみならず日本でも有数の「肉用牛一貫経営牧場」です。子牛を外部から購入して肥育するスタイルから、繁殖雌牛も所有して子牛を産ませ肥育するという一貫経営に移行し、現在は黒毛和牛の雌牛400頭、全体で1500頭という規模になっています。

今回は「鳥山畜産」の規模拡大だけではない、「一貫生産」に伴うブランド化戦略、輸出戦略、独自の和牛の改良、「うまみ」の評価と「見える化」などなどを学びました。 その経営戦略は「Toriyama ONLY ONE」という言葉に集約されます。そのための実践が「牛肉を売り切るまで全て自社で手がける一貫生産」「「味の見える化活動(味マップ作り)」「外さない牛生産」「遺伝子解析」「ロースを作らない海外輸出」なのです。

また、ちょうど、この日に「JGAP」の認証を取得されたそうで(関東地方で初めての肉用牛GAP)、そのお披露目の場にもなりました(オリパラ食材の調達を任せられている「全日本・食学会」の高岡副理事長はこの話を聞いて大喜びでした)。


高岡顧問(全日本・食学会副理事長)


鳥山真・鳥山畜産代表

ニューヨーク店オープンを控える「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ「堀井格之進のUSHISOBAのお題はバラ肉。バラ肉を生姜とあまだれで炊いて、木の芽たっぷりの関西風に。


肉おじさん・格之進の千葉祐士代表


鳥山さんのプレゼン

学びの概要

[caption id="attachment_2678" align="alignright" width="240"] 赤城和牛と肉おじさん、藤井理事[/caption]

「鳥山畜産」は群馬県の地域ブランド「赤城和牛・赤城牛」1の中心的な生産者として、長く地域の肉用牛生産をリードされてきました。現在でも「赤城和牛・赤城牛」ブランドでの生産も継続されていますが、黒毛和牛の子牛生産から肥育、牛肉の販売まで全て自社で行うウェイトが増してきており、個人ブランド「はぐくみ赤城和牛」2を展開しています。


1. 経営の一貫化

繁殖雌牛の飼育から子牛生産、肥育まで一貫化することで、雌牛の放牧による健康増進効果、子牛が家畜市場に出荷されず牧場内で飼育継続することによるストレス軽減など、美味しい牛肉を作るための「ストレスフリー」な環境下で生産することが可能になりました。

また、通常は31〜32か月齢で出荷していますが、一貫生産により自由度が高まったことで、顧客の求めに応じて、雌の42か月齢での出荷などもできるようになったとのことです。

鳥山さんの牛肉生産は「美味しい、また食べたい」と顧客に言ってもらえる牛肉を作る、そのためには「最適なタイミング・状態で提供できる」という自社販売の強みを活かして「美味しさの新基準」である「味マップ」3を独自に作ることにしました。

また、一貫生産であるということは、「良い子牛を家畜市場で選んで買ってくる」ということができないので、自社の雌牛から生まれる子牛を「外さない牛肉」に仕上げること、「顧客の「ゾーン」に居続ける肉を作ること」が大事になるそうです。

2. 味の「見える化」

「味の見える化」は2010年から取り組まれ、「脂質の評価」と「赤身肉の評価」を独自に分析しています。

「脂質の評価」は「食肉脂質測定装置」を用いて全ての出荷枝肉のオレイン酸、一価不飽和脂肪酸などを測定し、「赤身肉の評価」も全ての枝肉について、「味覚センサー」4を用いて「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「旨味」を「チャート化」し、「うまみ軸でみる牛肉のおいしさ」として「味マップ」を作成しています。

こうした作業を通じて、格付けだけでない枝肉出荷情報の収集を行い、牛肉として外れのない「安定スコア」の牛肉生産を目指すとのことです。

見た目や格付や流行に惑わされない食味の追究は、「一貫経営化」ゆえに実現できることだと思われました。

3. 遺伝子解析による「牛づくり」

「2」により「外れない肉質」を安定的に生産する目標を達成するためには、「外れない肉質」となる血統交配による「牛づくり」が欠かせません。一般に牛肉の味は血統7割、飼料(環境)3割と言われていて、特に脂肪交雑の追究には但馬系を中心とした血統をもつ子牛を肥育することが早道です。しかし、鳥山畜産は、食味結果に基づき「1頭当たり脂肪含有量50%」を交配目標に、枝肉データをクラウド化した「生産カルテ」を用いて交配結果を分析し、「外れない再生産、外さない血統交配」を実現するため遺伝子解析5を実施しています。このため、交配用の凍結精液を購入するだけでなく、自ら種雄牛を飼育して本交による子牛生産も行っている(「本交」は受胎率が良い、という効果もあり)。

4. 海外輸出

鳥山畜産では、3月に米国カリフォルニア、サンフランシスコ、ロサンゼルスで「ロイン系を使わない和牛肉のプロモーション」を行ってきたばかりで、現地では大変好評だったとのことです。鳥山畜産の和牛肉は既にシンガポールへ輸出しており高評価を得ており、すき焼きをサルサソースやトマトソースで提供するなど工夫した販売をしているそうです。鳥山畜産の輸出用牛肉は「うまみ和牛」という自社ブランドで展開しており、今後は他の生産者とも組んで「協力生産者グループ」による輸出に取り組んで行きたいとのことでした。

なお、本日の牛肉は、
1. 熟成肉6:31か月齢・去勢のランプとイチボ(骨付き60日熟成)
2. 非熟成肉:33か月齢・去勢のランプとイチボ(と畜後4週間)
となっています。

USHISOBA
「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ企画「牛そば」。
今回は「牛のバラ肉のあまだれそば」。バラ肉と生姜をあまだれで炊いて、重めのおつゆに、木の芽をたっぷり入れたそばです。


本日のメニュー

〇 シャルキュトリの盛り合わせ(写真1)
〇 牛ハツ入りパテドカンパーニュ(写真2)
〇 岩手・八幡平のほうれん草のシーザーサラダ(写真3)
〇 赤城牛食べ並べ 非熟成&熟成
  ランプ:ローストビーフ(写真4)
  イチボ:炭火焼き(写真5)
〇 赤城牛のペンネミートソース(写真6)
〇 牛そば(写真7)


ランプの「非熟成」と「熟成」


ランプのローストビーフ


イチボの炭焼き

脚注

1 「赤城和牛・赤城牛」

・赤城牛(総称)は、組合員が生産した肉牛を指し、赤城和牛(黒毛和牛)と赤城牛(交雑牛)に区分される。 銘柄流通に規格は設けないが、総販売元である鳥山畜産食品(株)の判断による。(赤城肉牛生産販売組合)

2 「はぐくみ赤城和牛」

赤城和牛を発展させた鳥山畜産のブランド。鳥山畜産農場内で生まれて肥育された和牛で、詳述したように「一貫生産より美味しいお肉」になるというコンセプト。現時点では、鳥山畜産の出荷牛の全てが一貫化できているわけではないが(本日提供の2頭の牛も外部導入の子牛を肥育したもの)、いずれ完全一貫化となるものと思われる。

3 味マップ


鳥山牧場では「外さない牛肉生産」を目指して、独自に「味マップ」を作成。「赤身のうまみ」と「脂のうまみ」をチャート化して赤身と脂のバランスの良い美味しさを表現。

4 味覚センサー

慶応大学のベンチャー企業「AISSY株式会社」が開発したもの。「味蕾」の代わりをするセンサーが電気信号を測定しニューラルネットワークを通して味を定量的な数値データとして出力する。

5 遺伝子解析


鳥山牧場は、家畜改良事業団の協力を得て「ゲノム解析」による計画交配を実施している。例えば、枝肉重量の大きい子牛を産ませたいときに、そのような遺伝子を持つ父親を交配することで牛群を改善する。

6 鳥山畜産の熟成肉

鳥山畜産は、牛肉の生産者であり、熟成もするという珍しい存在。2009年から熟成を始め、熟成方法は「枯らし」である。自社牧場生産の黒毛和牛の骨付きモモ肉を中心に5〜7週間の熟成を行っている(顧客の求めに応じて長期熟成も行う)

参考文献

鳥山畜産HP
鳥山牧場の赤城和牛HP
赤城牛と赤城和牛
上毛新聞4月16日(火):和牛を五輪食材に 昭和の鳥山牧場が日本版「GAP」取得
総本家更科堀井HP
格之進HP

本日のお料理


1 シャルキュトリの盛り合わせ


2 牛ハツ入りパテドカンパーニュ


3 ほうれん草のシーザーサラダ


4 ランプのローストビーフ(非熟成)


4 ランプのローストビーフ(熟成)


5 イチボの炭火焼き(非熟成)


5 イチボの炭火焼き(熟成)


6 ペンネミートソース


7 牛そば

福島牛の現在と未来

第27回肉肉学会の概要

[caption id="attachment_2587" align="alignright" width="240"] 高岡顧問[/caption]

「第27回肉肉学会」のテーマは「福島牛の現在と未来」。
肉肉学会は基本、「生産者ブランド」を取り上げて勉強しており、「〇〇県産牛」は扱わないのですが、今回は特別。東日本大震災8年目を目前にして「福島牛」と取り上げることに社会的な意義があると判断しました。

既に、自ら「福島牛」のキャンペーンに取り組んでいらっしゃる人形町今半さんに東京食肉市場で競り落としていただいた福島牛(福島県田村市坪井畜産の30か月齢・雌、50日熟成)を、学習教材としました。


[caption id="attachment_2588" align="alignright" width="240"] 肉おじさんと福島県・佐竹農林水産部長[/caption]

稲見副理事長の挨拶、江渡副理事長の「仲間たち」の成染め話を紹介いただき、福島県の佐竹農林水産部長から福島牛をはじめ農畜水産物の安全性確保の取組みなどをお話しいただきました。原田理事長から「福島牛の現状」について、和田理事(立命館大学教授)から「食の消費者理解の心理学」と題したプレゼンをいただきました。

人形町今半の久田課長さんからは「1頭1頭、牛を見極める今半の目から見ても、福島牛の品質は高い」との激励をいただき、最後に福島牛の肥育名人、大玉村で肥育経営を手がけ、29年度の全農枝肉共励会で最優秀賞に輝いた鈴木廣直さんから。福島牛への想いを語っていただきました。

「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ「堀井格之進のUSHISOBA」は、牛肉の粗挽きしんじょの蕎麦。


立命館大学・和田教授


福島県の前肥育牛部会長・鈴木廣直さん


学びの概要

[caption id="attachment_2593" align="alignright" width="240"] 江渡副理事長、福地さん、三森さん。[/caption]

今回のテーマを決めたキッカケからご紹介します。東日本大震災の発災から8年目を直前にして、江渡副理事長がニコニコ仲間の福地さんから「同級生(福島県東京事務所の三森さん)が福島県庁に勤めているのだけど、福島牛など未だに風評被害により価格が回復し切れていないようだ」とのお話しを聞いて、フェイスブックの「肉肉学会理事会」のスレッドに「福島牛を肉肉学会のテーマとして取り上げることはできないか」とのメッセージが流れてきたことがキッカケでした。

早速、千葉さんはじめ理事の皆さんから「ぜひ、肉肉学会のテーマに取り上げましょう!」と好意的な反応があつまり、人形町今半の高岡副社長からも「今半でも福島牛を取り扱っているので協力は惜しみません」と力強いエールをいただきました。

[caption id="attachment_2597" align="alignright" width="240"] 稲見副理事長のご挨拶[/caption]

そこからは、肉肉学会の動きは早い。福島県東京事務所、全農福島県本部に相談して、あれよあれよと言う間に「第27回肉肉学会・福島牛の現在と未来」と題して「福島牛」を取り上げることが決まり、フェイスブックで開催通知を行うとともに、今回はビラも作成し、関係者などで回覧する資料としました。

開催当日は東京でも雪の予報で心配したのですが、会場である六本木の「格之進Neuf(ヌッフ)」は50名を超える満員御礼のお客様で熱気溢れる幕開けとなりました。

稲見副理事長の冒頭の挨拶に続き、この日の枝肉を仕入れた「人形町今半」の高岡副社長(肉肉学会顧問)から「人形町今半は2年前から『福島牛フェア』を開催している。高島屋さんともコラボした。販売員が牛肉としての良さを伝えながら売れば福島牛は売れる。伝えるマーケティングが大切だ。人形町今半は東京芝浦市場で1頭1頭枝肉を見ながら購入しており、今日の牛肉もそのように選んだ「ハレの日の特選福島牛」とのメッセージをいただきました。

福島県からは佐竹農林水産部長に参加いただき、福島牛だけでなく福島県の農畜差水産物全体が放射性検査の実施により安全であること、福島牛は共励会などで優秀な成績を得ていることを説明された上で、福島牛の名誉は「実力で取り返す」と力強く宣言していただきました。(お土産の名産「あんぽ柿」いただきました。)

原田理事長は全国的な去勢和牛のBMS分布データや価格データを示して、肉質的には全国平均と劣らないにも関わらず、枝肉kg当たり300 円近い差があることを披露し、ピンチをチャンスとして、他県にない「福島牛の売り」が必要ではないか、とお話ししました。

続いて、立命館大学・食マネジメント学部の和田有史教授(肉肉学会理事)から「食の消費者理解の心理学」と題したプレゼンをしていただきました。和田先生は、コープ福島の陰膳調査(実際の食事による食品の内部被曝の調査)におけるセシウムの最大検出量が非常に小さい値であることを示しつつもネットに溢れるニセ情報に触れつつ、「信じればそれがリアル」になる消費者心理を紹介。「人は事実ではなく認識によって行動する。その認識は人によって異なるので単純に批判することはできないが、異なる認識の人間同士が、なぜ異なるのか考えたり、話し合ったりすることが重要ではないか」と問題提起をされました。

大トリは福島牛の生産者代表としてお話しをいただいた鈴木廣直さん(大玉村)。原発事故による出荷停止の影響の大きさ、出荷可能となってからは全頭検査に取組み、全く問題がないのにも関わらず枝肉相場が他県産牛より安いままであること、米と水が美味しい福島の牛肉は共進会等での評価も高いので、これからも消費者に美味しく食べていただけるような牛肉を生産していきたい、と熱意を込めてお話ししていただきました。

(原田注)私は原発事故による福島牛の出荷停止直後から何度も現地に足を運んで、当時、全農福島県本部の肥育部会長だった鈴木さんと、時には激しい議論もさせていただいたことがあります。穏やかで面倒見の良い鈴木さんは、福島牛生産者の代表としてもご苦労されてきたので、この日お招きできたことは私にとっても嬉しい再会となりました。

肉肉学会で「〇〇県産」の牛肉を扱うのは初めてでした。普段は、こだわりの生産者による滅多に手に入らないお肉を中心にテーマ設定しているからです。今回は、まもなく発災8年目になるのに、なかなか旧に復さない福島牛の現状を参加者に訴えつつ、福島牛の再生を確かなものにしたい、という願いを込めて開催しました。「肉肉学会」の参加者は約50人ですが、発信力の大きい方々なので、藤井理事曰く「福島牛の呪いを解くちから」があると信じます。

[caption id="attachment_2599" align="alignright" width="240"] 総本家更科堀井の堀井良教さん[/caption]

USHISOBA
「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ企画「牛そば」。今回は「牛の粗挽きのしんじょの蕎麦」は和風だしとお肉のコンビネーション。最初は「金格ハンバーグ」とのコラボを予定していたそうですが、「瓢箪からUSHISOBA」。


本日のメニュー

〇 福島牛の一口コロッケ(写真1)
〇 シャルキュトリのサラダ(写真2)
〇 アッシュパルマンティエ(写真3)
〇 内モモローストビーフ(写真4)
〇 肉豆腐 塩あんかけ(写真5)
〇 サーロインステーキ(写真6)
〇 牛そば(写真7)


福島牛のサーロイン(黒毛和種・雌 30か月齢)


「第27回肉肉学会」のビラ

参考文献

ふくしまプライドHP
「中田英寿 福島を旅する」(鈴木廣直さんと中田英寿さんの対話記事です)
総本家更科堀井HP
格之進HP


BMSナンバー(脂肪交雑の入り具合。1~12で表す)ごとの格付頭数と枝肉価格。福島県産牛肉は、全国平均と比べBMSでは差がないのに枝肉でkg当たり282円(1頭当たり123千円)安い。


牧場での飼育管理を徹底すれば、牛肉がセシウムに汚染されるリスクは下げられる。基本は、給与飼料、飲水等の汚染を防ぐことで安全性は担保される。

本日のお料理


1 福島牛の一口コロッケ


2 シャルキュトリのサラダ


3 すね肉のアッシュパルマンティエ 


4 内モモのローストビーフ


5 肉豆腐 塩あんかけ


6 サーロインステーキ


7 牛そば

世界のブランド尾崎牛

第26回肉肉学会の概要

[caption id="attachment_2564" align="alignright" width="240"] 尾崎宗春さん[/caption]

「第26回肉肉学会」のテーマは「尾崎牛」。サブタイトルは「生産者ブランドとして世界ブランディングを確立した哲学者尾崎宗春氏に学ぶ」です。「尾崎牛」と言えば、地元の宮崎市内だけでなく、日本全国の有名シェフの御用達として「知る人ぞ知る」和牛のトップブランドですが、これが「個人ブランド」として確立しているところが、他に例を見ない凄さだと思います。

また、「尾崎牛」の生産者である尾崎宗春さんは、その軽妙な語り口と人柄から熱心な尾崎ファンを生むエンタテイナーでもあります。今回は、「尾崎牛」と「格之進」のコラボという業界垂涎の企画が誕生し、休日ということで昼、夜2回の学会が満席という盛況でした。

[caption id="attachment_2565" align="alignright" width="240"] 株式会社eatmeetの星野康代表[/caption]

冒頭、原田理事長から「牛肉ブランド考」というテーマで、地域ブランドが主流の牛肉ブランドの中で、個人ブランドの可能性を考えるためのバックボーン情報を提供しました。
更に、「尾崎牛」の販売を手がけている株式会社eatmeetの星野康代表に、尾崎牛との出会いと販売戦略を語っていただきました。

「総本家更科堀井」さんと格之進のコラボ「堀井格之進のUSHISOBA」は、柚きりそばをうどん出汁のつゆで。尾崎牛のしんしんをしゃぶしゃぶのようにトッピングしました。これも新境地か。


[caption id="attachment_2567" align="aligncenter" width="240"] 肉おじさんと尾崎さん[/caption] [caption id="attachment_2566" align="aligncenter" width="240"] 総本家更科堀井・堀井さんのご挨拶[/caption]

学びの概要

1. プロが買えない「尾崎牛」

高岡顧問の挨拶で「尾崎牛は芝浦では買えない。BtoCの販売で成功。プロが買えない尾崎牛」という紹介がありました。更に、「尾崎牛は何が他のブランドと違うのか、考えて欲しい。味だけではない。尾崎さんと語ると「過程を掘り下げる」人だと思う。BtoCの顧客には「過程」を語れることが重要であり、料理人も自分の哲学で語ることができる必要がある」と、今回の学びのスタンスについてヒントも語っていただきました。

2. 尾崎牛と出会って人生が狂った星野さん

「プロが買えない尾崎牛」を料理人や消費者に販売しているのがeatmeetの星野康代表。尾崎さんとの出会いや、尾崎牛を消費者等に届けるに当たっての心構えを語っていただきました。「男性にはkg(キログラム)単位で、女性にはg(グラム)から販売」されるそうです(笑)。

3. 尾崎さんのお話し

今日は、時間無制限一本勝負でお願いした尾崎さんのお話です。さすがに途中から食事を始めましたが、「尾崎節」に魅了された皆さん、耳も舌もとろけてしまうお話しでした。ここでポイントを紹介しておきます。

・60才までに世界制覇をしようと思った。あと2年。現在、毎月60頭販売し、うち30頭は世界に輸出している。毎月80頭販売できるようにしたい。
・僕の人生は僕のオリジナル。
・子牛は高くても買う。1頭100万円を超えても買う。その牛を300万円で売れれば、子牛生産者に儲けてもらうことができる。
・和牛にサシを入れるのは血統の力、美味しいお肉・脂にするのは飼料の力。尾崎牛の飼料は40%がビール粕。飼料は毎日配合して給与する。
・子牛は10頭入れる大きな牛房から始めて、中部屋、小部屋で2頭ペアで飼う。仲の良い牛同志でペアリングするとストレスがなく良い牛肉になる。
・雌で生体重700〜750kg、27か月齢で飼料を10kg給与し、そこから給与量は減らしていき30か月以上飼育する。
・生後30日か月以上で「尾崎飼料」を食べたものが「尾崎牛」
・どんな尾崎牛を目指すかは料理人と決める。食べる前にイメージできないのは牛肉くらい。味は好みだけど、ハズレを作らず安定的に高品質な牛肉を目指す。「バトンタッチ」をした人がどんな料理を作るかが大事。
・オレイン酸が大事。尾崎牛はどの個体でも60%以上でばらつきが少ない。
・尾崎牛は融点が低い(28℃)
・和牛は国家財産であり、和牛を育て肉にするのは12種類のプロの手が必要。
などなど味わい深い「尾崎語録」を学びました。
※残念ながら尾崎節の中核をなす「エロネタ」は割愛しました。

3. USHISOBA

「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ企画「牛そば」も「尾崎牛スペシャル版」。柚きりそばを関西風のうどんつゆで。「尾崎牛のシンシン」を80℃のお湯でさっと潜らせしゃぶしゃぶ風に。

本日のメニュー

〇 堀井格之進「USHISOBA」番外編(写真1)
〇 尾崎牛のビアシンケン(シンタマハバキのミンチと角切りのカメノコ)と白金豚のパテドカンパーニュ、白金豚のハーブ入りソーセージの盛り合わせ(写真2)
〇 サラダ
〇 イチボとランプの炭火焼き(写真3、4)
〇 サーロインのローストビーフ(写真5)(58℃で12時間ロースト)
〇 尾崎牛と白金豚の合い挽きハンバーグ(写真6)(尾崎牛は手切り、白金豚はミンチで)
〇 ペンネミートソース(写真7)

[caption id="attachment_2568" align="aligncenter" width="640"] 尾崎牛のサーロインのローストビーフ。黒毛和種・雌32か月齢。[/caption]

参考文献

尾崎牛HP
株式会社eatmeet
総本家更科堀井HP
格之進HP

本日のお料理

[caption id="attachment_2572" align="aligncenter" width="640"] 1 堀井格之進「牛そば」[/caption] [caption id="attachment_2573" align="aligncenter" width="640"] 2 尾崎牛のビアシンケン」とシャルキュトリの盛り合わせ[/caption] [caption id="attachment_2574" align="aligncenter" width="640"] 3 イチボの炭火焼き[/caption] [caption id="attachment_2575" align="aligncenter" width="640"] 4 ランプの炭火焼き[/caption] [caption id="attachment_2576" align="aligncenter" width="640"] 5 サーロインのローストビーフ[/caption] [caption id="attachment_2577" align="aligncenter" width="640"] 6 尾崎牛と白金豚の合い挽きハンバーグ[/caption] [caption id="attachment_2578" align="aligncenter" width="640"] 7 ペンネミートソース[/caption]

YouTube 格之進公式チャンネル YouTube 格之進公式チャンネル

お買い物はこちら
お買物は
こちら
お買物はこちら
  • 格之進のふるさと納税

このページの先頭へ