2018年5月28日 第18回肉肉学会の概要
「熟成肉食べ並べ」と「USISOBA研究会」
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第18回肉肉学会の概要
「熟成肉食べ並べ」と「USISOBA研究会」
2018年5月28日
肉肉学会理事会
全日本・食学会肉料理部会分科会
堀井格之進
格之進Neuf
要約
「第18回肉肉学会」のテーマは「熟成肉」と「第4回USISOBA研究会」(堀井格之進)
18年度第1回目の今回は、改めて「熟成肉」の勉強をしようということで、品種と熟成方法の異なるサーロインを用いた「食べ並べ」1を行った。
特に交雑種を用いたウェット、ドライエージング、ドライエイジングシート(明治大学)の食べ並べは初めての試み。株式会社マルヨシ商事の平井良承社長からドライエージングについて、明治大学の村上周一郎先生からドライエイジングシートの研究について、総本家更科堀井の堀井良教社長からお話しを伺った。
第4回となった「USISOBA研究会(堀井格之進)」は前回までとは攻めの方法を変えての挑戦。
なお、今回から、「肉肉学会」として一層の科学的な味の知見を集積するという観点から「ポストディッシュ」2方式による「官能評価」を実施した。今後、試行錯誤しながら、参加者の投票による「牛肉の美味しさ評価方法」を開発していくこととする。
キーワード: 熟成肉、ウェットエージング、ドライエージング、エージングシート、アビタニアジャージーファーム、明治大学、総本家更科堀井、人形町今半
熟成肉の学び
今回は、ウェットエイジング、ドライエイジングという2つの熟成方法3の違いを学ぶほか、ドライエイジングのひとつの手法として、カビ菌を添加したエイジングシートで肉を包むことで均一かつ効率的な熟成をさせた牛肉を、同じ品種(交雑種)の同じ部位(サーロイン)で食べ並べてみる、とい野心的な試みとなっている。
ドライエイジングビーフを用意して下さったマルヨシ商事さんは、ドライエイジングビーフ界の雄で、2009年にドライエイジングを始め黒毛和種、交雑種、ホルスタイン種など様々な品種・部位のドライエイジングに通暁した会社で、平井社長は自ら米国などへも修業に行って「美味しい肉を更に美味しくする」ドライエイジングビーフの開発を進めてこられた。
平井社長によると、試食する交雑種はできるだけ同じ由来の牛肉にしたいということで、産地と肥育日数がほぼ同じ、27ヶ月齢の牛を用意したとのこと。4月2日と殺で、熟成期間は40日程度。マルヨシ商事のドライエイジングは0〜1度で湿度は70〜80%、特定の菌の噴霧などはせず、熟成庫内の常在菌のみを利用しているとのこと。(明治大学のドライエイジングシートとの違いでもある)。
明治大学が開発した「ドライエイジングシート」。そのシートによる熟成肉は、ファーストキッチンで初めて提供された際などにも話題をなった。
実はドライエイジングの科学的な成り立ちは分からないことが多く、細菌やカビの働きもよく分かっていない。故に、細菌やカビを強制的に添加する業者もいれば、そうでない業者もいて、マルヨシ商事さんの場合は特段の処理はしていない。明治大学の村上先生たちの研究チームでは、「ケカビ」を培養して得た胞子をシートに付着させ、そのシートで肉を巻くことで均一な熟成を促し、熟成期間の短縮等に効果を上げるという成果を得たとのこと。
村上先生からは失敗談も含めて研究過程をご披露いただいた。ご専門の「微生物化学研究」では酒造りも対象で、酒造りと同じように安定した熟成により「誰でもどこでも作れる方法」の開発を目指されたとのこと。
なお、スペシャル企画として、人形町今半の「スタンダード今半ステーキ」も登場。熟成肉企画に刺激された高岡理事(全日本・食学会副理事長)の渾身の熟成肉(鹿児島県産黒毛和種雌牛・4等級の100日熟成)。熟成肉勉強会に花を添えていただいた。
「USISOBA」by堀井格之進
堀井社長と千葉社長のジョイント企画「堀井格之進」の「USISOBA」も4回目。今回は、今まで以上に凝った内容になった。
2種の牛肉をしゃぶしゃぶして、そばを入れたつゆに盛って食べるという方式。牛肉は格之進の肩ロースとサンカク。
本日の食材
交雑種のうち、1頭は2015年12月7日生まれの青森県生まれ青森県育ち、4月2日と畜の27か月齢、1頭は2015年12月4日生まれの宮城県生まれ、青森県育ち、4月2日と畜と同じような由来の牛肉。
本日のメニュー
- 〇 アビタニアジャージーファーム牛の生ハムディップ(写真1)
〇 一関サニーレタスと自家製シャリキュトリのサラダ(写真2)
〇 熟成肉の「食べ並べ」
・交雑種・ドライエイジング(写真3)
・交雑種・ドライエイジングシート(写真4)
・交雑種・ウェットエイジング(写真5)
・ホルスタイン・格之進(写真6)
・黒毛和種・格之進(写真7)
・スタンダード今半ステーキ(写真8)
〇 牛そば 肩ロースとサンカクのしゃぶしゃぶ肉そば(写真9・10)
参考文献
ドライエイジング関連
・門崎熟成肉とは(格之進公式サイト)
・ドライエイジングへの取組み(マルヨシ商事HP)
・発酵熟成肉製造技術「エイジングシート」の開発(明治大学等の共同プレスリリース)
脚注
1 食べ並べ
今回の「肉肉学会」から使用。「肉肉学会」での肉の試食は、異なる由来や背景をもつ食材を「食べ比べ」て優劣を競うものではなく、食材を食べることで、その味や香りの違いを記憶に刻み、言葉で表現する方法を模索する行為である。、という想いを込めて使用している。
2 ポストディッシュ
これも今回から試行している、お肉の味や香り、食感などの印象を表現する手法。多くの参加者が動き回ることなく簡単に感想をポストする方式として、個人個人の感想をポストイットに記入し、紙皿に張って持ち回りポストする、というもの。
- 3 2つの熟成方法
1) - 我が国では「熟成肉」の明確な定義はないが、「格之進」の公式サイトでは次のように説明。
- 「熟成肉とは、一定期間低温で保存した肉で、肉の質感、味が変化することでおいしくなると言われている。食肉は、死後硬直後、酵素の働きで保水性が高まり、アミノ酸やペプチドが増加して味、香りがよくなると言われている。
ここ数年の熟成肉ブームの始まりは、赤身肉をやわらかくおいしくする技法として、アメリカから日本にも上陸し話題となった“ドライエイジングビーフ”から。
実は熟成肉についての公式な定義は、まだ日本にはないが、熟成方法は4種類ほどに分けられる。
一つは、アメリカから上陸した“ドライエイジング”
二つ目は、日本の伝統技法“枯らし熟成”
そして真空パックして保存する“ウエットエイジング”
四つ目は、チーズやヨーグルトなど乳酸菌を付着して熟成させる”乳酸菌熟成”
技法も違うのでそれなりに味わいが違うとも言われている。
ドライエイジング
チルド状態(0〜1℃)の冷蔵庫内で、肉に風を循環させながら乾燥熟成する技法、ドライエイジング。アンガス牛のように歯ごたえのある赤身肉を熟成することで、やわらかくナッツのような香ばしい香りのお肉に仕上げるテクニック。アメリカでは、アンガス牛の比較的霜降りが多い部分(サーロイン)を熟成するが、和牛の霜降りほどではなく、かなりイメージが異なる。
和牛の霜降り肉は、脂肪が多いのであまりドライエイジングには適さないと言われている。が、和牛でも脂の少ない赤身肉、肉が固くなってしまった経産牛(出産経験のある牛、主に乳牛)には効果的で、やわらかくなり、うま味がアップする。
枯らし熟成
“枯らし熟成”は、日本の伝統的な肉の熟成方法。牛肉の半身(一頭買いとは、半身2本分)をすぐに解体せず、一定温度と湿度、そして熟成を助ける菌が滞留する冷蔵庫に入れ、4週間前後そのまま保管。日本の熟成は、枝肉(=半身)のままただ吊して冷蔵保管する方法。この枯らす行為で、程よく水分が抜け、旨みがまし、和牛の至福香と言われる“和牛香”がより芳醇になるよう。
枯らし熟成は、実は、70年代頃まではいろいろな小売店で行われていた技法(熟成という言葉を使い出したのはここ数年)。けれど、手間がかかり、利益率が悪く、また真空パックが普及し、流通がよくなったため、枯らし熟成は行われなくなってしまい、今では希少な技法となっている。
ウエットエイジング
ウエットエイジングは、もともとは輸送する際の肉の劣化を防ぐための、保存方法。それが、肉を数日寝かせると肉質がやわらかくなり、うま味が増すことがわかり、ウエットエイジングと呼ばれるようになったと言われている。けれど、元々保存が目的なので、お肉はやわらかくなるが、うま味はドライエイジング、枯らし熟成と比べると、それほどアップするわけではなく、熟成香もない。まして、お店に経験と知識がないと、熟成と劣化の区別がつかないこともあるので注意が必要。
2)
業界団体である「全国食肉事業協同組合連合会」のHPも参考にされたい。
「熟成(エージング)牛肉について」
写真
1アビタニア牧場ジャージー牛の 生ハムディップ |
2サニーレタスと自家製 シャルキュトリーのサラダ |
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3 交雑種・ ドライエイジング |
4 交雑種・ ドライエイジングシート |
5 交雑種・ ウェットエージング |
6 ホルスタイン・ 格之進熟成 |
7 黒毛和種・ 格之進熟成 |
8黒毛和種・ 今半ステーキ |
9 USISOBAの牛肉。 肩ロースとサンカク |
10 USISOBA しゃぶしゃぶそば |
ポストディッシュ
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本日のポストディッシュの一部