鼻腔をくすぐる香ばしい香りの正体とは?
熟成肉の美味しい香り成分「ピラジン」と「ラクトン」
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どうやって熟成したらもっと芳醇な味わいになるのか?この課題は、肉おじさんの私にとって永遠の課題です。
熟成のテクニックは、食肉業者の方、生産者の方など、直接肉に関わる方々と情報交換をし、日々試行錯誤を重ね、よりよいお肉をみなさんに提供すべく常に連絡を取り合っています。
それと同時に味や香り、旨味など、科学的な見地から研究している大学の先生や農業の研究者などのお話も積極的にうかがうようにしています。
それはもう目からウロコの事実ばかりで、驚きの連続です。
でも、おいしさの理由、仕組みがわかり、日本の食の奥深さを再認識させられます。
今回は、美味しい香りの元となる2つの化合物のお話しをいたします。
香ばしい香りの正体は
加熱調理により生成される「ピラジン」
まずは、アミノ酸の話からはじめましょう。
熟成肉は、熟成の工程で旨味成分であるアミノ酸がたくさん生成しているからおいしい、という表現をよく目にします。しかし、科学的に見ると実は、熟成肉のアミノ酸量はそれほど多くはないそうです。
ではアミノ酸は熟成肉のおいしさに寄与していないのでしょうか?
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の渡邊彰先生の論文によれば、熟成した牛肉は、加熱調理した際に「ピラジン」という成分の生成量が増加すると記載されています。
ピラジン類は揚げ物などに含まれている香ばしさに寄与する香り成分で、アミノ酸と糖質が加熱された際に発生します。 熟成肉がおいしいと言われるのは、含まれているアミノ酸自体がおいしいというよりは、ピラジンのようにアミノ酸を原料として生成した香り成分の影響もあるのかもしれませんね。
和牛香の正体は「ラクトン」
和牛の熟成肉だけの美味しい香り
牛肉は熟成することで旨味成分であるアミノ酸であるグルタミン酸、アスパラギン酸が通常のお肉の数倍にもなると言われています。
さらに熟成肉を焼くことで生じる香ばしい香りピラジン類が発生します。
牛肉を熟成させることで、ラクトンという和牛特有の甘い香りが増加することが報告されています。
また、ラクトン類は輸入牛肉に少なく国産の和牛に多いことも知られています。
ラクトン類は脂質の酸化によって生成されるため、サシを重視する国産の和牛に多く、ほとんどが赤身肉の海外の牛肉では、甘い香りはあまり感じられないのかもしれません。
まさしく、サシのある和牛ならではのおいしい香りなのです。
味は、舌が感じるものだけでなく、嗅覚で感じる香りも、おいしいという感覚に大きな影響があることがよくわかりました。味覚の科学に、肉おじさん納得です。