2018年3月21日 第17回肉肉学会の概要
「ジャージー子牛肉」と「有難豚(ありがとん)」
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要約
「第17回肉肉学会」のテーマは「アビタニア・ジャージーファームのジャージー子牛」と「高橋希望(のぞみ)さんの有難豚(ありがとん)」。
アビタニア・ジャージーファームのジャージー牛肉は7か月齢と11か月齢の子牛肉。経営主の安原栄蔵さんには、「第14回肉肉学会」の「64か月齢のジャージー去勢牛肉」でも登場していただいた。今回は、子牛牛肉だけでなく、低温殺菌牛乳やヨーグルトも提供していただき、酪農家の恵みをフルに活用させていただいた。
「有難豚」は東日本大震災で宮城県名取市にあった養豚場が津波に流されてしまった高橋希望さんが東京で飼う放牧豚。津波で養豚場が流されたとき、高橋さんは東京で仕事をしていたが、養豚場にいたお父さんは「縦型コンポスト(堆肥を発酵させる密閉した発酵装置で高さは10mを超える)」の上に避難して無事だった。流された母豚たちのうち一部は自力で波から逃れ、倒壊した飼料タンクの中で残った餌を食べたり、近所の見知らぬ家で保護されたりして数十頭が高橋さんの元に残ったという。この日提供された豚肉は、それらの子孫に当たり、東京都杉並区の某所で放牧肥育されたもの。
牧場の概要
アビタニアジャージーファームの概要
「ABITANiAジャージーファーム」は青森県鰺ヶ沢町にあるジャージー牛専用牧場。1990年に6頭の牛からスタートし、現在は成牛、子牛合わせて約100頭の牛を飼育している。経営主の安原栄蔵さんは、我が国のジャージー飼育の草分け的な存在である「神津牧場」で勤務した後、カナダでの実習等を経て、現在地に新規参入農家として就農した。就農に当たっては、農林水産省の「畜産基地建設事業」を活用している。
1997年にはアイスクリーム工房「ミルム」を設立。2016年には畜産クラスター事業(農林水産省の補助事業)を活用して、食肉加工もできる乳製品製造施設が完成。現在では、牧場で生産・肥育したジャージービーフを自ら販売するほか、チーズ、バター、ヨーグルトの製造販売も行っている。
本牧場では、雌雄判別精液の使用による雄雌生産のコントロールはしていないため、生産される雄子牛は自家肥育を行っている。肥育方式にはあまりきっちりしたルーティンはなく、雌肥育同様、牧草と少量の配合飼料で飼育しているため、肥育期間は長くなる傾向にあるようだ。雌牛肥育は、繁殖時に太りすぎたものなどを肥育に回しているほか、自家更新で余った雌牛も適宜、肥育を行っているとのこと。十和田市のと畜場でと畜し、大分割したあと、2016年に完成した食肉加工施設で自ら部分肉加工し、加工場に併設するカフェ[MilMu]でジャージービーフとして提供している。更に、弘前市のホテルにも販売しているが、量的には限界があり、定期定量販売というところにまでには至っていない。
ジャージー牛の管理は、放牧も行いながら自給飼料生産も実施しているが、栄養価が高いアルファルファをカナダから輸入して給与している。乳脂率の高いジャージー牛の飼育には、1アルファルファ給与が必要との考えからだ。
「有難豚(ありがとん)」の概要
前述したように、高橋希望さんは、東日本大震災の発災時は、東京で食育コーディネーターをしており、兄と弟がいたので実家の養豚場を継ぐ意志はなかったとのこと。現在は、宮城県栗原市の養豚場(名取市の実家養豚場が崩壊したあとで借りている豚舎)の母豚から生まれた子豚を東京都世田谷区の植木屋さんの敷地内で7〜8ヶ月放牧飼育している。精肉販売とハム・ソーセージなどの加工品(ハム工房等への委託生産)を契約販売している。事業規模の拡大は難しいので、小頭数ながら、付加価値を高める戦略である。飼育する豚の品種は、もともと飼育していた黒豚やデュロック種を交配したものが主体で、茶色と黒の斑柄の豚は、見た目にも人気があるとのこと。 なお、ゲーム開発会社とタイアップした「ようとん場」というゲームアプリが180万ダウンロードを超える人気を有しており、100万ダウンロード記念の「豚肉プレゼント企画」で「有難豚」の精肉やソーセージをプレゼントしたこともあるとのこと。
本日の食材
月齢の異なる2頭のジャージー去勢子牛の肉で、1頭は2017年4月25日生まれの11か月齢、1頭は2017年8月5日生まれの7か月齢で、どちらもアビタニアジャージーファーム産、2018年3月14日に出荷され、同日、十和田食肉センターでと畜されたもの2。前者の枝肉重量は57kg、後者は同46kg。給与飼料は同牧場が飼育する他の肥育牛と同様、牧草(アルファルファ主体)と若干の配合飼料とのこと。「子牛肉」といっても、ミルクのみを給与する「ヴィール」ではなく、肉食も赤身である。
(写真:有難豚の生ハム原木)
本日のメニュー
〇 アビタニアジャージーファームの牛乳(乾杯)
〇 有難豚の生ハム(写真1)
〇 クリームヨーグルトのカナッペ「セルヴェル・ド・カニュ」(写真2)
〇 ヨーグルトとフルーツ、ジャージー牛の生ハムのサラダ(写真3)
〇 ジャージー子牛の内臓のソーセージ「アンドゥイエット」(写真4)
〇 ハツのソテーとレバテキ(写真5)
〇 ハチノスとセンマイのトマト煮込み(写真6)
〇 子牛のステーキ (7か月齢と11か月齢)(写真7)
〇 子牛のミートボール モッツアレラチーズのグラタン(写真8)
〇 子牛のジャージーミルク煮(写真9)
〇 牛そば 肩ロース首もととスジ肉の付け汁(写真10)
参考文献
アビタニアジャージーファーム HP
有難豚 FB
総本家更科堀井
家畜改良センター個体識別情報検索サービス
格之進 HP
脚注
1 アルファルファはヨーロッパ原産のマメ科牧草。栄養価が高く「牧草の女王」と呼ばれるが、酸性土壌の多い日本では栽培適地が少なく、ほとんど北米からの輸入に頼っている。
2 個体識別番号「1363840722」「1363840630」を「家畜改良センター」の個体識別情報検索サービスで確認。