2017年5月31日 第12回肉肉学会の概要
磯沼ミルクファームのジャージー未経産牛
- カテゴリ
-
要約
第12回肉肉学会のテーマは、「八王子の磯沼ミルクファームのジャージー未経産牛」。
「肉肉学会」が追求するテーマは「お肉の美味しさとは何か」「様々なお肉にはそれぞれ独自の美味しさがある」「多様な美味しさを追求する生産者を応援する」などがあります。慣行飼育法による和牛だけでなく、放牧肥育の和牛であったり、沖縄在来種のアグーであったり、お肉の美味しさを開拓し、消費者の皆さんに評価していただくことを目指しています。
今回のテーマである「ジャージー未経産牛」は、「ジャージー種」という日本では食肉利用の道が確立していない乳用種(生乳を搾るための品種)で、かつ、未経産の雌牛という、分娩して生乳を搾るために飼育されている雌牛を未経産のまま肥育した特殊な牛肉です。
今回のお客様は、この牛を仕上げた八王子の磯沼ミルクファーム代表の磯沼正徳さん。また、磯沼さんとコラボしている「日本橋ゆかり」の野永喜三夫さんにもお話しいただいた。
写真左:磯沼正徳さん、写真右:野永喜三夫さん
ジャージー未経産牛肉の概要
① 磯沼ミルクファーム
② ジャージー種の牛肉
我が国の国産牛肉を供給ベースでみると約45%が和牛、55%が乳用種と交雑種(乳牛を母、和牛を乳とする雑種)であり、それぞれについて一定の「肥育方式」があることで斉一性のある牛肉を生み出している。
乳用種の中での消費の主体は去勢牛肉で雌については搾乳後に「廃用牛」としてと畜され、挽き肉の材料やレトルトカレーなどに利用される。
以上のような乳用種の肥育・利用体系はホルスタインを前提としており、圧倒的な少数派であるジャージーなどその他の品種については、農家で分散飼育している(1戸当たりでみると数頭しか飼育していない)ことから、ホルスタイン種のような体系的な「肉利用」がなされていない。
一方で、ジャージーを集団的に飼育している産地では、観光客用にレストラン等で利用できるよう、地域内のジャージー種の去勢を肥育している場合もあるが、この場合でもホルスタイン種や和牛と同様の穀物主体の配合飼料を給与しており、品種としての特性が活かされている訳ではない(ジャージー種をホルスタイン種と同様に肥育すると、ホルスタイン種より肉質が良く、肉質等級3が4割程度出現すると報告もある)。
このため、「一般社団法人 全日本・食学会」では「シェフ牛事業」2と称する、ジャージー種を放牧肥育する実験事業を29年度から3年間の計画で行っているが、今回のテーマである「ジャージーの未経産雌牛」は、牛肉としては非常に貴重な個体である。
③今回の牛肉
今回の牛肉は、磯沼ミルクファームで生まれ、育成・肥育された「ジャージー未経産牛」の38か月齢(下の写真)。通常、乳用種の雌は分娩して搾乳するために飼育されているので「未経産雌牛」を肥育することは滅多にない(繁殖障害などで、妊娠しないことを理由に処分されることはあるが、この場合でもわざわざ「肥育」することはない。飼料代と手間暇かけても牛肉としての評価は低くペイしないためである)。
今回の牛は、「フリーマーチン」3という雌なのに生まれつき繁殖能力のない個体として生まれた牛。この牛を磯沼さんが、「アニマルウェルフェア」の観点から、繁殖能力のない雌といえども肉としての価値を高めて、経済動物としての命を全うさせたいという思いから飼育されていた牛である(38か月齢は、和牛と比べて8〜10ヶ月ほど長い出荷月齢となる)。
格之進での熟成期間は50日間。
本日のメニュー
〇 ミートパイ(写真1)
〇ジャージーホルモン(ミノ、ギアラ、シマチョウ、直腸、ハツモト)とハツのサラダ仕立て、塩麹ドレッシング。
〇 レバーソテー(写真2)
〇 塊肉
ウチモモ、ランプ、イチボ(写真3)
〇 ローストビーフ
ソトモモ(写真4)、骨付きサーロイン(写真5,6)
※低温で9時間じっくり焼き上げたもの。
〇 キーマカレー(写真7)
〇 磯沼牧場のヨーグルトと島バナナ(写真8)
〇 江戸っ米ぷりん(写真9)
日本橋ゆかり・野永喜三夫さん提供の東京こだわり食材※を使った江戸前ライスプリン。
※
①磯沼ミルクファーム(八王子市)のジャージー牛乳
②カトウファーム(町田市)のこだわり卵
③高月営農集団清流米部会(八王子市)の米・もち米
参考文献
〇磯沼ミルクファームHP
〇東京牛乳HP(生産者紹介)
〇畜産における六次化産業例(農水省HP/磯沼ミルクファーム)
〇日本橋ゆかりHP(三代目ブログ)
脚注
ジャージー種やブラウンスイス種のように、現在の牛肉流通消費体系では活かされていない牛肉を、放牧肥育することで新たな商品として創り出していこうとする取組み。(右図参照)
3 フリーマーチン(英:freemartin)とは、牛の異性多胎において雌胎子が生殖器の分化に異常をきたし不妊となる個体。牛の異性多胎では90%以上がフリーマーチンとなる。その発生率はホルスタイン種では1〜2%。雌としての繁殖能力がないため、生まれてまもなくソーセージ原料などに処分される例が多い。
写真
5 サーロインのローストビーフ