【株式会社門崎 代表取締役】千葉 祐士×【サロン・ド・シマジ店主】島地 勝彦
プレイボーイの名物カリスマ編集長と熟成肉を語る
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幼い頃に疎開した先の岩手県一関市で過ごしたサロン・ド・シマジ店主 島地勝彦氏は、かつて『週刊プレイボーイ』を発行部数100万部を突破する雑誌にした、魅力的な作家や各界の人物に愛された名物カリスマ編集長です。
現在は「エッセイスト&バーマン」として執筆活動に勤しみながら、週末土日は新宿伊勢丹メンズ館8階の「サロン・ド・シマジ」で文化を発信し続けています。
今回わたしたちがお邪魔したのは、彼の仕事場である「サロン・ド・シマジ:本店」。
読んだ人を「シマジ中毒(ホリック)」にする魅力的な文章と存在感を生み出しているこの聖地で、
島地さんが「格之進」に向ける想いを語ってくださいました。
千葉:本日はお忙しい中、ありがとうございます。
シマジ:まあそんなことはない…と言いたいところなんだが相変わらず本当に忙しいんだ。75歳を迎えてなお、WEBサイトの原稿が毎週4本、雑誌は4誌の「原稿の締め切り」というハードル競争を走り続けているからね。
しかし、格之進のためなら是非もない。日頃の私への「えこひいき」のお返しに、語ろうじゃないか。
元気こそ正義である
シマジ:千葉と初めて出会ったのは一関の「アビエント」だったな。
千葉:はい、シマジさんの「公認執事」、アビエントの松本バーマンから紹介していただきました。
松本バーマンには昼の間、格之進で営業のサポートをしてもらっています。
シマジ:わたしは幼少から高校までを一関で過ごし、今でも一年のうち2、3回は一週間ほど一関に滞在している。千葉に最初に出会った時、元気の良さにびっくりした。いろんな人に会うのがわたしの仕事だが、わたしと同じくらい元気なヤツに会うことは滅多にないね。
千葉:「元気こそ正義である」っていうのがシマジさんの格言にありますね。確かに毎日走り回っていますが、
愉しくて仕方ありません。
後日、わたしは約束どおり親友で一関のジャズ喫茶「ベイシー」のマスター・菅原正二と「乗移り人生相談」担当の高弟・ミツハシ、それから「公認執事」の松本を連れて一関市川崎町にある格之進の本店に行ったんだ。
登場したのは、実験的に一年間熟成された肉の塊だった。10キロあるというその肉の塊にはカビがビッシリ生え、「皆様にこれを食べていただきます」とニヤリと笑った千葉の言葉には、さすがのわたしも度肝を抜かれた。10キロの肉のうち、9キロはカビが生えて腐敗していたが、1キロは奇跡的にピンク色をした艶のある姿で良質なチーズの香りが漂っていた。
千葉:このお肉を召し上がっていただくのにふさわしい、舌の肥えたみなさんに食していただきたかったのです。
後からお腹壊したと言っても保証しませんが・・・
シマジ:あれはまさに「大牢の滋味」というヤツだ。でも、正ちゃん(菅原正二さん)のコメントは衝撃だったね。「この肉の味は優雅に軽い、まるでギンギツネのショールを纏った80歳の貴婦人をベッドに運んでいるかのようだ」と言っていたな。「80歳の貴婦人」は正ちゃんの「友人」の体験談らしいがね。
そんなスペシャルなえこひいきをしてもらったから、SHISEIDO MENの連載で、千葉と「格之進R」にご登場願うことにした。
そこで写真を撮ってもらっていたタッちゃん(写真家・立木義浩氏)が、ファインダーを覗きながら「シマジ、肉を焼いてる時のコイツの目は『ド変態』だ!」と叫んだのも痛快だった。千葉の新書『熟成・希少部位・塊焼き 日本の宝・和牛の真髄を食らい尽くす(講談社+α新書)』の帯文はわたしが書いたんだが、当然この『ド変態』の文言も使っている。
千葉:親しい方々からは「お肉の変態」と呼ばれています。変態とは、「常態を変革し、新しい価値を生み出す創造者」の意味です。
えこひいきの倍返し
シマジ:久しぶりに再会した元プロレスラーの前田日明と食事をしようと思った時に選んだのも、
東京の「格之進R」だった。
予約の電話をかけたら、たまたま千葉も東京にいるタイミングで、店まで駆けつけてくれたんだよな。前田日明は「1キロは食べたいけど、遠慮して750グラムにしようかな」なんて言ってたのに、出てきた肉の旨さに驚いて、「シマジさん、これはうまいですよ。いいお値段するでしょうね」と、大皿の上の肉を瞬く間に平らげてしまった。「会計はわたしが持とう」と言って、伝票を開いた。前田日明がいくら食ってもいいように、しっかりとキャッシュを持ってきていたんだ。そしたら想定外に安い。眼鏡の奥でニコーッと千葉が笑った。またえこひいきされてしまったわけだ。
シマジ:いつも言うように、人生は「運と縁とセンス」なんだ。隣にいるお客様とあの日に出会えたから、わたしは共に戦ってくれている連載の担当者たちと贅の限りを尽くしたような会を体験することができた。 そのえこひいきの倍返しで、高弟ミツハシが新たなる門出を迎え、「乗移り人生相談」が新しい海に乗り出す時も、会場は「肉屋格之進F」を使わせてもらった。美味い肉に参加者一同大満足だったよ。 千葉の強運と、こうして出会えた縁と、本物を選び取るセンスに、これからも大いに期待しているんだ。
一関への思い
千葉:長く東京にお住いのシマジさんが、未だに一関がお好きな理由は何なのでしょうか?
シマジ:まず一つは、水がうまいこと。親炙した開高健文豪も旅をする度に言っていたものだが、水のうまい街はいい街だ。水がうまいと、野菜も米も酒も美味くなる。これは非常に大事なことなんだ。
もう一つは、今までの学友に加えて、新たに素敵な親友ができたことだよ。一関一高の一年後輩、ベイシーの菅原正二だ。彼はまさに「通人」だね。そしてよく浪費し、人生を遊んできた男だ。「本当にいいもの」がわかる、「目利き」なんだ。会う度に、「オレたち男と女じゃなくてよかったな」と言って笑っている。 そんな文化的風土をもつ一関は、大槻三賢人を生み出した「学問の地」でもある。
開国した明治時代の日本が、どうして欧米列強の植民地にならなかったか?それは日本が誇るべき最初の国語辞典『言海』を一人で著した大槻文彦がいたからに他ならない。自国の言葉をきちんと定義できるということは、交渉時に使う法律、条約を明確で確固たるものにできるということなんだ。 そんな「学問の土地」で育ったわたしは、学校の勉強はまるでやらなかったが本だけは好きで、高じて編集の道に生き、今もこうして文化を発信している。
縁を感じずにはいられない街だよ。
一関から羽ばたく
シマジ:そんな一関から躍進する「格之進」だ。千葉の夢が大きいのも、わたしが格之進を応援する理由だよ。
千葉:まずは六本木に10店舗作ること、そしてオリンピックの時には「門崎熟成肉」と岩手県の食材を使った料理を提供できるブースを作ること、そして海外のお肉と対抗できる「門崎熟成肉」をブランディングし、パリとニューヨークにお店を展開するのが目標です。
シマジ:そういう夢を実現してこそ、生きるってものだよ。「人生は冥土までの暇つぶし」なんだ、せっかくの人生、愉しいことを存分にやって生きようじゃないか。