2019年5月30日 第30回肉肉学会の概要
オリーブ牛 脂肪の質からみえる新たな旨み
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第30回肉肉学会の概要
「第30回肉肉学会」のテーマは「オリーブ牛」。
香川県の銘柄牛だが、県のブランド牛というより、アマニ油給与牛のように牛肉の資質を考えることを目的とし、「オリーブ牛」の生産・流通・消費を支える人々、特に流通・販売に携わる人々からみたオリーブ牛を学びました。このため、本日のプレゼンテーターは生産者ではなく、肉肉学会の常連さんであり高松市内でステーキハウス「一牛(いちご)」を経営する森由樹博氏にお願いしました。
「オリーブ牛」は香川県産の牛肉としてブランド化されていますが、もともと、香川県のブランド牛肉は永く「讃岐牛」でした。9年前に小豆島の和牛肥育農家である石井正樹さんが、小豆島名産のオリーブの搾油カスを飼料として使えないものか、と挑戦したのです。しかし、オリーブの搾油カスは苦くて、牛が食べません。そこで、天日干しにするなどして乾燥させたうえで55度くらいの温度で更に乾燥させるとメイラード反応により牛の食い込み、増体とも良くなる飼料に生まれ変わったのでした。
また、オリーブの搾油カスを飼料として給与することで、牛肉の筋肉間脂肪のオレイン酸含量が増加して、食後のくちどけが良い牛肉になることが分かり、「オリーブ牛」としてデビューすることになったわけです。「オリーブ〜搾油カス〜牛〜堆肥」という循環型農業の確立にも繋がり、今では、香川県を代表する食のブランドに成長しました。
学びの概要
1. オリーブ牛の現状
オリーブ牛のブランド化から今年で9年になる。その出荷頭数は毎年、増加しており、30年度には2335頭となっている。目標は3000頭で、農林水産省の補助事業等による牛舎の建設などによる規模拡大を進めている生産者もいる。ただ、香川県は、黒毛和種の繁殖地域ではないため、県外の家畜市場からの素牛購入に頼る面が大きく、子牛価格が高騰している現状では、大幅な出荷頭数の増加は難しいだろう。
オリーブ牛の出荷は香川県内が主体で「地元のブランドは、まず地元で食べよう」という意識をもつ流通販売業者さんが多いようだ。関西圏にも出荷するが、首都圏はまだ少ないとのこと。芝浦市場にも上場されていないので、首都圏での認知度の向上、ブランド作りが課題となっている。
「オリーブ牛」の確立には、香川県内の肉屋さん(卸)の力が大きく、本日も参加されていたフタガワフーズさん、ササハラさんで4割のシェアを持っている。
2. オリーブ牛の誕生
オリーブ牛の生みの親は、現在、「小豆島オリーブ牛研究会会長」を務めておられる石井正樹さん。小豆島の特産であるオリーブの搾油カスが畑の肥料にしかならず産業廃棄物としてかなりの部分が処理されていたことに目をつけ、肥育用の飼料化を試みた。ところが、搾油カス(オリーブの種の殻)は苦くて、牛も食べようとしなかった。そこで、海岸で天日干ししたあと、55度くらいの温度で乾燥させると、メイラード反応により、搾油カスに香ばしい香りがつき、牛の嗜好性が大きく改善されることが分かった。
石井さんは、この成果を小豆島だけにとどめず、香川県全体で共有できるようにした。このため、香川県下の肥育農家のほとんどが、オリーブ飼料を給与するようになり「讃岐牛」から「オリーブ牛」への大転換が進んだのである。1
オリーブ牛は、和牛平均と比べ、うまみ成分であるグルタミン酸が1.5倍、ペプチド総量が1.4倍、抗酸化成分であるカルノチンが2倍、アンセリンが1.7倍含まれていることが分かっている。
こうした脂質の良さが評価され、2017年10月に宮城県で開催された「第11回全国和牛能力共進会」では、9区(枝肉の部)でオレイン酸を含む一価不飽和脂肪酸の含有量が65.2と最も高かった塩田清勝さんの出品牛が「脂肪の質賞」を受賞した。2
3. 今日の展開
「肉肉学会」としては「オリーブ牛」を単なる「県産ブランド牛」ではなく、「肉肉学会」の一連のテーマでもある一価不飽和脂肪酸と肉のうま味との関係を考える素材として位置付けている。
以前からアマニ油を給与した牛・豚・鶏肉の研究をしており、その延長として「オリーブ牛」を体験した。本日の感想でも「脂がさらっとしていて美味しかった」「雑味がない肉」などの声があり、また、普段の「肉肉学会」ではあまり経験のない味噌との組み合わせなども好評であった。
なにより、「肉肉学会」の常連さんでもある森由樹博さんが、「森ガールズ」を引き連れて、自らの屋号をつけた子牛3を紹介するなどの「心意気」に感動された参加者が多かった。
本日のメニュー
〇 内ヒラ(内モモ)のステーキ(写真1)
〇 チマキ(スネ)の塩煮込みスープ(写真2)
※スネを2日間炊いた上記のスープから濾した脂(油)
〇 低温しゃぶしゃぶとほうれん草のサラダ(写真3)
(しゃぶしゃぶの部位は「三日月」)
〇 三角バラの西京味噌漬け(写真4)
〇 リブロースの牛肉炊き込みご飯(写真5)
本日の牛肉は、小豆島生まれ、ササハラオリーブファーム育ちの30か月齢去勢牛
脚注
1 オリーブ牛認証の要件
2 全国和牛能力共進会・宮城大会での成績
3 「一牛」という名の牛
参考文献
・オリーブ牛HP
・ステーキハウス 一牛HP
・株式会社ササハラ
・フタガワフーズHP
・格之進HP