2018年7月23日 第20回肉肉学会の概要
「純和鶏」と「Ω3給与牛」と「茨城県産小麦バンズのハンバーガー」
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第20回肉肉学会の概要
「純和鶏」と「Ω3給与牛」と「茨城県産小麦バンズのハンバーガー」
2018年7月23日
肉肉学会理事会
全日本・食学会肉料理部会分科会
リバティフーズ
格之進Neuf
要約
「第20回肉肉学会」のテーマは「純和鶏」「亜麻仁脂肪酸カルシウム(Ω3)給与牛」と「茨城県産小麦バンズとΩ3給与牛ハンバーガー」
前回に引き続き「鶏肉」をテーマに「純和鶏」を学ぶ。
「地鶏」1と呼ばれる鶏肉には様々なブランドがあるが、「純和鶏」とはどのような鶏肉なのか。食用鶏の品種と飼料の学びを一層深めたい。
今回は、「純和鶏」を生産・販売する「株式会社ニチレイフレッシュ」の田邊畜産事業部長からその取組についてご紹介いただいた。
「亜麻仁油脂肪酸カルシウム給与牛」は、交雑種にΩ3が豊富な亜麻仁油脂肪酸カルシウムを給与して肥育した牛肉。亜麻仁油脂肪酸カルシウムを提供する飼料会社・太陽油脂の中山悟社長から、その目的や効果を伺った。
シリーズ研究の「USHISOBA研究会(堀井格之進)」は堀井さんの海外出張により休会。
替わって「鳥山格之進」。肉肉学会の常連さんでもあるリバティフーズの鳥山社長からスペシャルな贈り物「茨城県産小麦バンズ」を提供していただいたので、「Ω3牛肉のハンバーガー」を試食することができた。
今回も、「肉肉学会」として一層の科学的な味の知見を集積するという観点から「ポストディッシュ」方式による「官能評価」を実施。参加者の皆さんのご協力に感謝。
キーワード: 純和鶏、地鶏、オメガ3、オメガバランス、亜麻仁油脂肪酸カルシウム、ニチレイフレッシュ、太陽油脂、リバティフーズ、格之進
学びの概要
1、純和鶏
「純和鶏」とは、ニチレイフレッシュが岩手県洋野町の養鶏場で生産しているブランドで、鶏の品種、給与飼料に特徴を打ち出している。
最も特徴的なのは品種である。通常、ブロイラーは「原々種鶏」(食べる段階の鶏の曾祖父母に相当)、原種鶏(同、祖父母に相当)は海外への依存度が高く(現在は、99%が海外の原種鶏に依存)、我が国では輸入された原種鶏の雛を生産してブロイラーとして飼育している。最近のように海外のあちこちで鳥インフルエンザが発生すると、当該国から原種鶏を輸入できなくなるため、ブロイラー用の雛を供給する業者は、海外からの調達リスクの分散に躍起となっている。こうした中で、独立行政法人家畜改良センター兵庫牧場は、国産種鶏2を開発し、種鶏生産と雛供給を行う「(株)イシイ」と、実際に鶏肉を生産販売する(株)ニチレイフレッシュがタッグを組んだ。「純和鶏」は「原種鶏」を日本で確保し、更に飼料米の給与と鶏糞の資源循環を打ち出したブランド鶏なのだ。品種と飼料の違いもあって「純和鶏」の飼育期間は一般のブロイラーより2週間ほど飼育期間が長い64日。この2週間に岩手県軽米町産の飼料米を給与している。
一般のブロイラーの品種はオスが白色コーニッシュ、メスが白色プリマスロック(優性)だが、「純和鶏」はオスが赤色コーニッシュの【紅桜】、メスが白色プリマスロック(劣性)の【小雪】という(一昔前の)古風な品種の組み合わせ。これが赤っぽい肉色や部位毎の肉付きの差に影響しているものと思われる。
「純和鶏」と「通常のブロイラー」を比べた「と体」(内臓を除いた状態)を解体していただいたが、肌の色の違いのほか、むね肉の大きさ、脚の長さや肉付きの違いなどを確認できた。
後述の写真を確認していただければわかるが、「純和鶏」純和鶏の方がモモが細長く、手羽も長く胸肉が薄い。
2、Ω3牛肉(亜麻仁油脂肪酸カルシウム飼料を給与した交雑種)
本日の2番目のテーマは「オメガバランス」
「オメガ3系脂肪酸」は人間が体内で作ることができない必須脂肪酸。最近の健康増進ブームで「オメガ脂肪酸」は注目を浴びているが、オメガ3系脂肪酸とオメガ6脂肪酸では体内での働きが逆なので、3/6のバランスを確保する必要がある。ニチレイフレッシュが「オメガバランス」を冠としたミートブランドを打ち出しているのもそのため。特に鶏肉、豚肉では亜麻仁油由来(オメガ3系脂肪酸の代表格α―リノレン酸を多く含む)の飼料を給与することで、オメガ3脂肪酸の割合を通常より高めることが分かっている。牛肉も同様であるが、鶏や豚ほど顕著ではない。これは、反芻動物である牛特有の第1胃でのメタンガス発酵の際に亜麻仁油脂肪酸カルシウムに含まれる不飽和脂肪酸が第1胃の中の水素と結合してしまうからである(換言すると、この水素の結合により第1胃でのメタンガス発酵が抑制されるため、地球温暖化対策として有効といえる)。
本日は、広島県中山牧場で肥育された交雑種で「亜麻仁油脂肪酸カルシウム」を給与した牛、していない牛を食べ並べした。
3、「茨城県産小麦バンズのハンバーガー」by「鳥山格之進」
本日の特別メニューは、「オメガバランスビーフ」のハンバーガー。そのバンズに茨城県産のパン用小麦「ゆめかおり」を使用している。これは、茨城県を中心にセブンイレブンのパンを製造している(株)リバティーフーズ(鳥山雅庸社長)が特別に提供してくれたものだ。
本日の食材
「純和鶏」は内臓のない「中抜き」の解体をみせていただいた。一般のブロイラーと比較対照しながらの解体ショーで,両者の違いがよく分かった。
「純和鶏」は肌が赤身がかっており、むね肉が小さく、もも肉が細長い。むね肉は見た目では分からないが繊維が細く、食べるとパサパサ感がなく柔らかいという感想が多かった。
本日のメニュー
- 〇 純和鶏のレバームース(写真1)
〇 純和鶏のハツと砂肝ソテーのリーフサラダ(写真2)
〇 純和鶏 手羽先(写真3)
〇 純和鶏 もも肉とむね肉(写真4)
〇 なかやま牧場交雑牛ステーキ
〇 オメガ3摂取牛のサーロインとランプ (写真5)
〇 通常の交雑種のサーロインとランプ(写真6)
〇 オメガ3摂取牛のハンバーガー(写真7)
参考文献
・家畜改良センター兵庫牧場
・株式会社ニチレイフレッシュ
・株式会社太陽油脂
・農研機構「アマニ油脂肪酸カルシウムによる肥育牛からのメタン発生抑制」
・農研機構「アマニ油脂肪酸カルシウム給与で交雑種牛の出荷月齢が短縮できる」
・ニチレイフレッシュ「「オメガバランスビーフ 亜麻仁の恵み」のこだわり」
・株式会社 リバティフーズ HP
・茨城県農林水産部HP「茨城をたべよう」(小麦「ゆめかおり」について)
・格之進 公式サイト
脚注
1 地鶏
「地鶏」の一般的な定義はないが、「地鶏」を冠した鶏肉が乱立し、消費者の混乱を招くとして1999年に「地鶏肉の日本農林規格(特定JAS地鶏)」定められ、1:生産方法の基準、2:生産工程の管理記録、3:認証及び表示についての基準が決められている。2015年に一部改正され、飼育期間が80日から75日に短縮された。
なお、「銘柄鶏」とされている鶏肉は、飼育期間の延長、特別な飼料給与等により一般のブロイラーと差別化した商品で、価格帯的には、ブロイラーと地鶏の間に当たる。
2 国産種鶏
上記の「地鶏」は、生産工程から分かるように、「国産種鶏」により生産されている。
地鶏の原種鶏は、家畜改良センター兵庫牧場が提供するか、都道府県の畜産試験場等の公的機関が生産し、ひな鳥の生産は民間に委ねている生産方式が主流だ。これはほとんどの地鶏が地域ブランドであり、都道府県単位でクローズされた生産流通体系をとっているためだ。こうした生産流通体系を維持することで、地域ごとに特徴ある「地鶏ブランド」が生産されているのだが、視点をかえれば、「ナショナルブランド」としての「和鶏」が存在していないとも言える。牛肉の場合、日本全国共通の品種として例えば「黒毛和牛」があり、地域名等を冠にした「〇〇和牛」を地域ブランドとしているが、鶏の場合、この和牛に相当する「和鶏」が存在していないのだ。
そういう意味では「純和鶏」というブランドにより、初めて「和鶏」が登場したと言える。
また、「地鶏」は注1にあるように「日本の在来鶏の血が5割以上入っている必要」があり、なかなか新しい品種が誕生しにくい事情もある。明治期までに日本に定着した「在来鶏」は江戸期に大いに改良された鶏だが、その改良目的は、愛玩、鳴き合わせ、羽色等の美しさ、闘鶏など「食用」とは異なる目的が主で、肉や卵のうま味、育ちやすいさ等ではない。そういう意味でも「地鶏」の枠を破る新しい「和鶏」の開発は重要だと思われる。
写真
1 純和鶏の |
2 純和鶏 |
3 純和鶏 |
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