2018年6月12日 第19回肉肉学会の概要
「秋田高原比内地鶏」と「ジャー黒」と「USHISOBA研究会」
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第19回肉肉学会の概要
「秋田高原比内地鶏」と「ジャー黒」と「USHISOBA研究会」
2018年6月12日
肉肉学会理事会
全日本・食学会肉料理部会分科会
堀井格之進
格之進Neuf
要約
「第19回肉肉学会」のテーマは「秋田高原比内地鶏」「黒毛和牛×ジャージー牛」と「第5回USHISOBA研究会」(堀井格之進)
今回は、肉肉学会初めて「鶏肉」をテーマに掲げた。それもいきなり難易度の高い「秋田高原比内地鶏」。後述するように、「地鶏」1と呼ばれる鶏肉には様々なブランドがあるが、「秋田高原比内地鶏」は、「地鶏とは何か」を学ぶのに最適な素材である。
今回は、「秋田高原比内地鶏」を生産・販売する「秋田高原フーズ」から大塚智哉・智子ご夫妻にプレゼンしていただいた。
「黒毛和牛×ジャージー牛」は、業界用語で「ジャー黒」2と呼ばれる、ジャージー牛の雌に黒毛和牛の雄を交配した牛である。
広島県福山市の(有)ルミノの中山高一社長は永年の研究から効率良くジャー黒を生産されている。販売担当のPerry中山智博CEOとご一緒にプレゼンしていただいた。
第5回となった「USHISOBA研究会(堀井格之進)」は「総本家更科堀井」と格之進の共同研究。今回は格之進の熟成肩ロースを辛口のつゆで。
なお、前回から「肉肉学会」として一層の科学的な味の知見を集積するという観点から「ポストディッシュ」方式による「官能評価」を実施しており、今回はポストイットの大きさを統一して行った(前回は大きさがまちまちで、整理が大変だった)。引き続き、試行錯誤しながら、参加者の投票による「牛肉の美味しさ評価方法」を開発していくこととする。
キーワード: 比内鶏、秋田高原比内地鶏、地鶏、ルミノ、ジャー黒、総本家更科堀井、格之進
学びの概要
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1、秋田高原比内地鶏
- 原田理事長が農水省畜産部長時代にお邪魔した「秋田高原フード」さんは、秋田県が「比内地鶏」の再定義付けを行う過程で、秋田県が認定する「比内地鶏」という枠組みから外れることを余儀なくされた直後に当たる。その直接のきっかけは「比内地鶏偽装事件」であり、県がその収束を図るために比内地鶏を「再定義」したことにある。そもそも、秋田県の比内地鶏には2系統が存在し、流通していた。ひとつは「秋田高原フード」の創設者である佐藤広一氏により収集保存された「黎明舎系統」と「秋田三鶏保存会系統」である。「高原比内地鶏」は「秋田比内鶏」の雄と「ロード」の雌を交配した「コマーシャル」(肉用に飼育する鶏)。
秋田県の「比内地鶏」の定義に「系統」はないが、その飼育方法として「放し飼い」「平飼い」の規定を定めたため、「ケージ飼い」している秋田高原比内地鶏は、別個の道を歩まざるを得なくなった。
「地鶏」と言うと「平飼い」のイメージが強く、特定地鶏JASや多くの「地鶏ブランド」も「平飼い」を特徴としているが、秋田高原比内地鶏は「ケージ飼い」である。秋田高原フードが「ケージ飼い」をする理由として、疾病予防、食糞の回避、順位付けのためのツツキの抑制等を揚げており、それぞれ鶏の管理の観点からは首肯できるものである。
冒頭、指摘したように、地鶏とは何か、品種か、飼い方か、またその双方か、を考察する上で重要な視点を投げかけていただいた「秋田高原比内地鶏」なのである。
なお、秋田高原比内地鶏は全て雌鶏で、今回は、大塚さんがナイフ一本で捌く技にも魅入られました。ナイフは切り裂くというより、関節を外すために最小限用いるようで、内蔵を傷つけないように捌かれていた。なお、通常、鶏の解体は内臓を抜いて(中抜き)から行うもので、このように内臓を温存したまま外から捌く方法は、手作業ならではのものだろう。 -
2、「黒毛和牛×ジャージー牛
- (有)ルミノ中山高一代表から、家業の中山畜産について、畜産の道に進む事を決意した理由や大学時代の研究テーマと卒業後に進みたいと考えた進路等についてお話しを伺った。特に豊橋飼料での配合飼料設計の経験がその後のコンサルティング事業、有限会社ルミノの創業に結びついた経緯が興味深く、ルミノという社名(牛の第1胃=ルーメンでの発酵が草食動物たる牛の基本)が物語るように科学的な飼料設計・給与に心血を注いだ姿が浮かび上がってくる。
なにしろ「血液から肉の味を知りたい」ということで20万頭のデータを分散分析にかけるなど研究分析してきたので、「見栄えが良くないと売れない」という考えに馴染めない。赤肉が美味しいジャージーに行き着き、ルミノでは和牛×ホルの交雑、和牛×ジャージーの交雑1200頭を肥育している。ジャー黒は、某大手スーパーに売っていたが「黒毛×乳用種でないと交雑種ないと言われた」とのことで、直接販売をしている。息子の智博氏にも、ルミノの牛肉をマーケティングする中での「ジャー黒」の可能性を語っていただいた。本日の牛は生後24ヶ月齢、2週間のウェットエージングによる牛肉でサーロイン、ヒレ、ランプ、イチボを試食。ジャー黒で24ヶ月齢は一般的には「若い」と思われるが、効率的な飼料給与・管理により生体で900kg近くまで達してしまうので、適齢のようだ。 -
3、門崎熟成肉ホルスタインサーロインのローストビーフ
- 骨付き熟成90日以上。いわば、格之進の「スタンダード・ローストビーフ」
「USHISOBA」by堀井格之進
堀井社長と千葉社長のジョイント企画「堀井格之進」の「USHISOBA」も5回目。今回は、肩ロースに辛口のかえしのハーモニー。
本日の食材
「秋田高原比内地鶏」は雌の丸鶏の解体をみせていただいた。
ケージ飼いなので、足の裏が綺麗なんです。脚が太くて大きいのはこの品種の特徴。
なお、大塚さんが食べ並べ用に「近所で売っていた比内地鶏3」を持ち込んでくれたので、両者を味わうことができた。
右が比内地鶏、左が秋田高原比内地鶏
本日のメニュー
- 〇 自家製ソーセージのサラダ(写真1)
- 〇 秋田高原比内地鶏 胸肉・もも肉(写真2)
〇 比内地鶏 胸肉・もも肉(写真3)
〇 黒毛和牛×ジャージー牛
ヒレ・サーロイン(写真4)
ランプ・イチボ (写真5)
〇 門崎熟成肉ホルスタインサーロインのローストビーフ(写真6)
〇 牛そば 肩ロースの辛口かえし(写真7)
参考文献
・秋田高原フード HP
・地鶏JASの改正について:地鶏の日本農林規格(JAS)改正時の資料。JASにおける地鶏の定義や生産状況等がまとまっている。
・株式会社Perry HP
・総本家更科堀井 HP
・格之進 公式サイト
脚注
1 地鶏
「地鶏」の一般的な定義はないが、「地鶏」を冠した鶏肉が乱立し、消費者の混乱を招くとして1999年に「地鶏肉の日本農林規格(特定JAS地鶏)」定められ、?生産方法の基準、?生産工程の管理記録、?認証及び表示についての基準が決められている。2015年に一部改正され、飼育期間が80日から75日に短縮された。
なお、「銘柄鶏」とされている鶏肉は、飼育期間の延長、特別な飼料給与等により一般のブロイラーと差別化した商品で、価格帯的には、ブロイラーと地鶏の間に当たる。
2 ジャー黒
「肉肉学会」では「ジャージー牛肉」を主要テーマのひとつにしているので、肉肉学会の常連さんは良くおわかりのように、優れた乳用種であるジャージー牛も雄子牛は牛肉としての評価が確立されていないので、酪農家が飼育しているジャージー牛は牛肉として有効活用されていないことが課題となっている。このため、少しでも子牛として高く売れる「ジャー黒」を生産するためにジャージー雌牛に黒毛和種を種付けすることがある。この場合、生まれてくるジャー黒の雌子牛も搾乳用にはできないため雄雌子牛とも肉利用される。例えば、初生牛(生後2週間までの子牛)1頭あたりの価格は、ジャージー雄子牛5千円程度、ジャー黒雌子牛4万円程度、ジャー黒雄子牛5万円程度と聞いている。
3 比内地鶏
大塚さんが「近所で買ってきた比内地鶏」はおそらくJAあきた」北央農協が販売している「比内地鶏」(「比内地鶏」も3商品あり、これは「鶏種」「平飼い・放し飼い」はほぼ同じで販売者の違いによるものらしい)と推察する。この「比内地鶏」の定義は?飼育地」北秋田市、?鶏種:比内鶏♂×ロードアイランドレッド♀、?出荷日齢:♀平均170日、出荷体重:平均2.2kg、?飼育方法:平飼い、放し飼い、等々となっている。