2023年4月27日 第59回肉肉学会の概要
黒毛和牛経産牛放牧タイエット熟成仕上げ 〜真逆の発想 究極の赤身肉 鏡山牧場〜
- カテゴリ
-
満席御礼の今回のテーマは、「黒毛和牛経産牛放牧タイエット熟成仕上げ〜真逆の発想究極の赤身肉鏡山牧場〜」として、第36回肉肉学会で取り上げ、昨年末の肉肉忘年会でもリクエスト1位を獲得した、宮崎県延岡市鏡山牧場の「八崎牛」です。「八崎牛」というブランド名を全面に打ち出したところに、鏡山牧場代表・八崎秀則さんの決意と自信を感じました。今日は、鏡山牧場のスタッフ4名もご一緒で、従業員の方を「八崎牛を食べてくれる方々と触れることで学びを得させたい」という八崎さんの思いも素敵です。なんで多くの従業員が一斉に牧場を離れることができるのか。八崎さんのお話しにあるように鏡山牧場の牧場仕事には、普通の牧場にはない「農閑期」があるからです。
まずは八崎さんのお話しから。
「いろいろ試行錯誤して最初のやり方から変わった。今日現在牛が2頭しか残ってない。冬の間は牧草がないので、牛は残さず牛肉の加工などの作業に従事している。また、かつては、ハラミの牛を導入して、生まれた子牛は育成後、販売し、分娩後の経産牛を放牧肥育していた。子牛販売で回転を早め収入を得る必要があったからだが、今は子牛の出産、育成という仕事はない。このため、経産牛を導入する前は牧場の作業は融通がきくので、従業員たちを1泊2日で連れてくることができた。
牛を2頭残しているのは、これから新たに導入する牛の「放牧ガイド」役として。牛は生まれながらに放牧で生きる技術を身につけている訳ではなく、群れのリーダーから生きる技術を学ぶ。牛舎で育ってきた導入牛をリードするのが、残している2頭。この2頭に「放牧で生きる技術」を学んだ牛を、新たに導入した牛につけることで、どんどん放牧可能な牛が増えることになる。京都大学などと共同でGPSを付けた放牧牛の行動研究をしたが、かなり習慣的な行動をしていることに驚いた。
現在は妊娠していない経産牛のみ導入し、「放牧肥育」するが、「肥育」という名の下に牛が痩せていくことに気がついた。しかし、導入したら放牧というラインは崩したくない。
導入する経産牛はマチマチ。種が付かないので売られる若い牛もいれば、8産くらいの牛もいる。今日の牛も27カ月齢から104カ月齢まで幅広い。
導入したら放牧し、草がなくなる秋以降、全頭出荷してしまう。この方式に転換してから2年目になる。たくさん失敗し、借金も重ねてきたが、この方式で行くしかないと思っている。
子牛の分娩・育成までしていたら365日休む間もないことになる。その頃は「周年放牧」として草のない冬も外に出していたが、いわば「無理やり放牧」。「自然放牧」と称していたが、実は不自然なのだと気がついた。素人だったので太ると思って放牧していたが太らなかった。肉になってもロースとヒレしか売れない。残った肉は持って帰るということになった。いっそのこと「一頭まるごとミンチ」にして売ろうかと思ったほど、牛の飼い方も売り方も知らなかった。
現在は牛舎での濃厚飼料はやらない。幼稚園児が描くような(緑の牧草地に牛がいる)飼い方をしたい。健康な、しあわせな牛でないと美味しい牛肉にならないと思う。
放牧することにより、600?で仕入れた牛は540?にまで体重が減る。これがダイエット。更に肉を熟成することで肉の中の自由水が減り肉の重量が1割以上減る。肉を増やすことが牛飼い仕事のはずなのに、肉を減らすことで旨みを増していく、そんな肉作りになっている。」
経産牛については、肉肉学会でも様々な生産者さんと品種で取り上げてきており、その美味しさは認知されてきていると思います。課題は、個体差の大きいこと。
今日のお肉も、サーロイン104ヵ月齢 メス
ランプ・イチボ 27ヵ月齢メス
バラ 72ヵ月齢メス
スネ 102力月齡メス
と月齢はバラバラだし、「27ヵ月齢」は種が付かなかった未経産牛で、他は経産牛です。
それにそれぞれ、以前飼っていた農家の飼育方法も異なるのだから肉質や枝肉重量にも差があるのは無理もない。牧場スタッフの方からは、意識して導入しているか分からないけど「但馬系」の牛は放牧に向いていて肉質も良くなるのだと思うとのこと。
なので、こうした牛を扱うシェフの方には「ジビエ」的な感覚で、肉に合わせた調理をしていただくことになり、一流の技術が求められることになる。たぶん、欧州の牛肉に最も近い和牛でしょう。
本日のメニュー
〇 ステックフリッツ
〇 ランプの低温調理 カルパッチョ仕立て
〇 牛肉のサラダ
〇 スネ肉のポトフ
〇 イチボのステックアッシュ
〇 バラ肉のホエー煮込み
〇 バラ肉のローストBBQカスクルート