2019年6月26日 第31回肉肉学会の概要
天然記念物見島牛を食す
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要約
「第31回肉肉学会」のテーマは「見島牛」。生産地の山口県萩市・見島では「天然記念物」として繁殖用の雌牛や雄牛が飼育されているが、廃用となった雌牛や去勢子牛は、本土に運ばれて「肉牛」として飼い直しされ、見島を離れた見島牛は食べることができる。
開会の挨拶は江渡副理事長から。
今回は、この稀少な「見島牛」の雌牛をいただく機会となった。見島牛を萩市内で飼い直ししたのは、萩見蘭牧場の藤井照雄社長。
「見蘭牛」とは、ホルスタインの雌牛に見島牛の精液を交配した交雑種で、ホルスタインの体格と見島牛のサシの入りの良さを狙った「いいとこ取り」の牛。「見蘭牧場」の主力はこの「見蘭牛」で、年間に数頭しか見島を出ることがない「見島牛」の経産牛や去勢子牛は、成長が遅く経済的には全くペイしないため、藤井社長の「見島牛愛」の賜として出荷されるもの。
今回の牛は見蘭牧場で13か月間飼い直しされた6歳7か月齢の雌牛で出産記録がない「未経産牛」。藤井社長は「見蘭牧場」よりさきに「みどりや」という食肉販売・加工会社を経営されていて、直営のレストランで「見蘭牛」を扱っている。このような見島牛販売流通のプロだからこそ、生産まで担うことが可能と言える。
わざわざ沖縄から来ていただいた高田さんは「アグーの回」でも来ていただいたが、見島牛と同様日本の在来種である「口之島牛」の飼育者。この日は日本に2種しか残っていない「在来種」の2大巨頭が顔を合わせた日ともなった。
「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ「堀井格之進のUSHISOBは「南いわて牛の煮こごりそば」。
学びの概要
今日のテーマは「見島牛※1」。肉肉学会の原田理事長は30年以上の農林水産省勤務でも「見島牛」を見たことはないし、もちろん食べたこともなかったとのこと。それが「肉肉学会」で実現することになるとは!今回のゲストは永い間、「見島牛」を見守ってきた藤井輝雄氏((株)みどりや・(有)萩見蘭牧場代表取締役)。
藤井社長は、萩市内で「みどりや」という食肉販売店を経営する傍ら、見島牛の雄とホルスタインの雌を掛け合わせた交雑種「見蘭牛」を肥育するために「萩見蘭牧場」を建設・運営している。そこで肥育している300頭あまりの見蘭牛は自社の精肉店や焼肉レストランで提供しているが、わずかながら、見島牛の去勢牛や経産牛を肥育している。
藤井社長は、ある会社が起こした食品偽装事件をきっかけに、牛の生産から販売まで自分でまかなうスタイルにしたとのことだが、牛を1頭売り切るのは大変なので加工食品も製造して、無駄のないようにしている、とのこと。
外国種の血が全く入ってない「見島牛」は我が国固有の牛品種として、見島※2という地域と合わせた「天然記念物」であり、見島ではと畜して食べるということはできないが、廃用牛や種雄牛としない雄子牛は去勢を前提に島外で肥育し、牛肉として食べることが可能なのだ。とはいえ、雄でさえ、体高が130cm 程度と小型で増体が悪い見島牛。雄の生時体重は16kg、10か月で 150kg、出荷できるまでに4才近く飼育する必要があるそうで、肉用牛としては経済性が低すぎ、そのままではペイできるような牛肉とはならない。このため、萩見蘭牧場で肥育されているわずかな去勢と経産雌牛は経済性を度外視して肥育しているといえる。
実は、肉肉学会の肉おじさんと牛おじさんが今年の4月に萩にお邪魔したときに出会った藤井社長さんに、16歳1か月齢の見島牛をご紹介いただき(食べさせていただいたということ)、そのうま味のある赤身とバランスのとれたサシの、なんとも言えない味わいに驚愕したという出会いがきっかけで、今回の肉肉学会でのテーマが決まったのでした。
「見島」は萩市の沖に浮かぶ絶海の孤島!見島牛は、見島の小さな田んぼを黙々と耕してきた見島にしかいない牛で現在では80頭程度となっている。昭和3年に見島にいる見島牛が国の天然記念物に指定されたが、その理由は、外国の品種の血が入っていない我が国在来種であるから。
それにしても、肉用牛としての改良を一切してない見島牛になぜ、これほどの強いサシを入れる遺伝力が備わっているのか?見島牛と同じく、外国種の血を入れてない在来種の「口之島牛」は、それほどサシを入れる力はないので、なんとも不思議な存在感のある牛である。そんな素晴らしい見島牛なのに「和牛」と定義される黒毛和種など4品種には含まれていないため、見島牛の去勢牛や経産牛は、販売時に「和牛」という表示※3をすることができないという矛盾もある。
本日の「見島牛」は6歳7か月齢の雌牛。分娩記録がないので未経産らしい(これまた珍しい)。萩見蘭牧場で13か月間飼い直し(肥育)している。
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「総本家更科堀井」さんと「格之進」のコラボ企画「牛そば」。今回の企画は見島牛ではなく、格之進の「いわて南牛」を煮こごりにして、オリーブオイル、すだち、青ネギを添えた逸品。
本日のメニュー
〇 シャルキュトリとミックスリーフのサラダ(写真1)
〇 見欄牛サーロインステーキ(写真2)
〇 見欄牛内モモのローストビーフ&炭火焼き(写真3)
〇 見島牛肩ロースグリル(写真4)
〇 門崎熟成肉のペンネミートソース(写真5)
〇 牛そば(写真6)
在来種「見島牛」と岩手産黒毛和種の雌牛同士のサーロイン比べ。ロース芯の大きさの違いが良く分かる。この見島牛は16歳1か月令の経産牛
(今回の肉とは異なる)
増体系の黒毛和牛と見蘭牛、見島牛の歩留まり比較。枝肉歩留まりは黒毛67%、見蘭62%、見島牛56%。正肉で黒毛50、見蘭45、見島32%。
脚注
1 見島
「見島牛」を飼育する農家は見島に7戸しかおらず島内では天然記念物のため、経済動物として意識されていない。永く耕耘用の役畜として飼われてきたため、前躯に比べ後躯が貧弱で、枝肉重量も期待できない。
2 見島牛
「見島」は牛のかたちに見える農業と漁業の島。海上自衛隊のレーダー基地のある「防人の島」でもある。島内には小さな田んぼがたくさんあり、ため池が散在する。
3 和牛表示のルール
牛肉の小売り時等に「品種」を表示する場合は、「牛トレーサビリィ法」に基づいた品種分類に従う必要がある。現在では左表のように、「和牛」表示が可能なのは、和牛4品種の純粋種か、4品種間の交雑種である。