2017年11月23日 第14回肉肉学会の概要
ジャージー牛肉の食べ比べ(飼料と肥育期間の違いの研究)
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要約
第14回肉肉学会のテーマは、「ジャージー牛肉の食べ比べ」。
10月29日の全日本・食学会主催「全日本・食サミット」でスーパーシェフに提供した、青森県鰺ヶ沢町アビタニアジャージーファームの68か月齢の去勢肉と千葉県山武市小林牧場の28か月齢の去勢肉を食べ比べた。もっとも両者の差は月齢だけでなく、アビタニアファームの牛は牧草主体(放牧含め)の飼料給与、小林牧場は和牛と同じ配合飼料等を給与、と飼育形態が異なることにも留意したい。
アビタニアジャージーファームは、ジャージーだけ飼育する酪農場で、牧場主の安原栄蔵さんは、自らジャージー去勢牛(時には雌も)を肥育し、食し、販売して、牛肉としてのジャージー牛の可能性を研究してきた方。今回の牛は68か月齢という超長期肥育1の牛である。
一方の、小林牧場は、福島県飯舘村で和牛肥育をしていた小林将男さんが、東日本大震災被災後に千葉県山武市の協力で「分場」を作り、牧場経営を再開したもので、今回、提供の牛は、茨城県稲敷市新利根共同農学塾農場で放牧酪農を営む上野裕さんが飼育していたジャージー去勢子牛を、和牛と同様の方法で肥育した牛である。
今回のゲストは、安原栄蔵の長男の大地さん、小林将男さん、新利根共同農学塾の上野裕さん。
写真:上から
右:安原大地さん
小林将男さん
左:上野裕さん
牧場の概要
① アビタニアジャージーファーム
アビタニアジャージーファームは、安原栄蔵さんが新規就農者として入植した青森県鰺ヶ沢町の牧場で、ジャージー種だけを飼育し、生乳を利用した乳製品製造・販売、ジャージーの去勢牛などの販売(レストラン等への販売のほか、直営カフェでも利用)、自家製造の乳製品や肉製品を扱うカフェの営業などを行う「六次化」の実践者であるとともに、「酪農教育ファーム」に永年、取り組み、消費者への酪農の状況を理解していただく取組みのリーダーでもある。
② 新利根共同農学塾農場(乳と蜜の流れる牧場)
③ 小林牧場(山武分場)
小林さんは東日本大震災発災までは、福島県飯舘村で黒毛和種の繁殖肥育一貫経営をされ、繁殖雌牛約50頭、肥育牛約100頭を飼育していた。東京電力福島第一原発の事故により避難を余儀なくされ、平成23年4月に千葉県山武市の空き牛舎を借り、飯舘村から142頭の牛を運搬し経営再開。その後、山武市の協力を得て、被災地域農業復興総合支援事業により飯舘村が山武市にビニールパイプ牛舎を整備し、当面、小林さんは山武市で増頭を図る方針。
本日の食材
ア:
アビタニアジャージーファームのジャージー去勢牛肉は、平成24年5月10日生まれの64か月齢で出荷した牛。枝肉重量422kg,格付等級はB22。生後12か月までアルファルファ乾草主体で、それ以降はイネ科牧草と飼料米、若干の配合飼料で、48か月齢以降はアルファルファ乾草と飼料米、配合飼料を給与。格之進で60日熟成。
イ:小林牧場
小林牧場のジャージー去勢牛は、「新利根共同農学塾農場」で平成27年6月11日に生まれ、28年10月2日に小林牧場に移動し29年10月2日までの1年間、小林牧場で飼育された牛。小林さんが挨拶で仰ったように、生後1年未満で小林牧場に移動して、肥育牛としての管理をすれば「もう少し良い肉になったかも知れない」(肉用牛は一般的に生後7〜10ヶ月齢程度の子牛を導入して肥育する)。枝肉重量365kg、格付等級はC22。 なお、「新利根チーズ工房」から「フロマージュ・ブラン」が提供されている。
本日のメニュー(和牛飼料の28ヶ月齢と牧草肥育の64ヶ月齢)
〇 64ヶ月齢 タンソテー(写真1)
〇 64ヶ月齢 コーンドビーフ(写真1)
〇 ジャージー牛のフロマージュブランのカナッペ(写真1)
〇 28ヶ月齢 タリアータ クレソンのサラダ
フロマージュブランのドレッシング(写真2)
〇 64ヶ月齢 レバーソテー(写真3)
〇 2種の食べ比べ Lボーンのローストビーフ(写真4〜6)
〇 ジャージー牛100%のハンバーガー(写真7)
(28ヶ月齢90%+64ヶ月齢10%)
〇 フロマージュブラン
中:同 肩ロース
下:同 トウガラシ
参考文献
〇アビタニアジャージーファーム(青森県畜産協会HP)
〇「東日本大震災からの復旧・復興」(小林牧場の紹介)農水省HP
〇山武市職員オモテナシブログ(山武和牛〜小林牧場さん移転記念〜)
〇新利根共同農学塾HP(フィールド・オブ・ドリームス)
〇新利根チーズ工房(「チーズメディア」記事)
脚注
1 ジャージー牛の肥育期間
ジャージー牛は「肉用牛」としてのマニュアルが確立しているわけではないので、適正な肥育期間があるわけではないが、ホルスタイン去勢牛並に(配合飼料給与で)飼育するのなら、22〜24ヶ月齢で出荷されることになる。
一方で、ジャージー牛はホルスタインよりサシが入りやすいことも知られているので、和牛並の27〜30ヶ月齢で出荷する方が一般的なようである。
なお、30か月齢以上肥育しても(配合飼料で)肉質の改善は見られないとの研究報告がある。
2 ジャージー牛の肉質
ジャージー種を集団的に飼育している某地域では、酪農家で生まれた雄子牛を農協として集約的に肥育し、農協直営のレストランで提供している。ここでのジャージー種の肥育成績は、以下の通りである(28年度)。
平均出荷月齢 30ヶ月(日齢913日)、平均枝肉重量 385kg
肉質等級:3が46%、2が58%。
歩留まり等級:Bが63%、Cが37%
写真
28ヶ月(左)と64ヶ月(右)
(28ヶ月齢90%、64ヶ月齢10%)