新商品はどうやって生まれるのか
熟成肉、うにく、和出汁肉…なぜ格之進は新商品を次々とヒットさせられるのか?|格之進の肉おじさん『お肉と経営』vol.01
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この記事は、1999年創業・熟成肉のパイオニア「格之進」代表の肉おじさんと、ビデオポッドキャストプロデューサーのなにゆえ山本洋輔がお届けする『お肉と経営』のテキスト版です。
食の教養と経営のリアルに触れたい、会食の多いビジネスパーソン向けにお話ししています。
今回のテーマは「新商品はどのようにして生まれるのか」。一頭買い、塩コショウで食べる焼肉、熟成肉、和出汁肉。格之進が生み出してきたものに共通するのは、市場を分析して奪いに行くのではなく、市場そのものを創る発想でした。
目的が変わると、手段も変わる
飲食店を始める理由は、普通なら「儲けたいから」です。しかし格之進の出発点は違いました。育てた牛の値段を、生産者自身が決めたかった。その目的のために選んだ手段が、たまたま焼肉店だったという話です。
肉おじさん:
生産者が経営して、育てた牛を自分で値段を決めるために店を始めました。そもそも飲食店を始める目的が少し違っていて、まずは育てている牛を自分で値段を決めようと。
どうやって値段を決めるかって考えたときに、焼肉はいいと思ったんです。
山本:
そういう発想だったんですね。
肉おじさん:
肉屋さんだと肉がいっぱい売れるけど、肉の日や割引販売とか、パックで値引きがよくあるじゃないですか。
値引きしたくないよね〜、みたいな笑。
値引きしない方法、どうしたらいいだろうと考えた時に、焼肉店だと思いました。
当時は焼肉の割引ってあんまりなかったんです。
山本:
そこから違うんですね。
肉おじさん:
そもそもが、安く仕入れるルートがあって、いいお肉を仕入れるルートがあって、という話じゃないんですよ。
目的を達成する手段が焼肉だったというところがスタートなんです、私の中では。
差別化のつもりが、比較の土俵に乗っていた
焼肉店を始めた当初、格之進もタレを揉み込み、キムチを準備する「普通のやり方」を真似ていました。しかしそれでは、タレの味やキムチの味で評価されてしまう。お肉そのもので評価されたいなら、比較する項目自体を変える必要がありました。
肉おじさん:
タレがおいしいお店には勝てないと思った。
でもタレがおいしいと肉の味がわからなくなる。
どうやって差別化していくのか、どうやったら思いが伝わるのか、考えたんです。
そもそもタレの中に美味しい味がいっぱい入っているので、お肉の味がわからなくなると感じて、タレ揉みをやめました。
山本:
うんうん。
肉おじさん:
比較されると、タレがうまいとかキムチがうまいなど、お肉じゃないところで評価される。
お肉で評価されるにはどうしたらいいかと考えたら、お肉の味をダイレクトに味わう方法が塩コショウだと思いました。
否定ではないですが、大体の焼肉屋さんは化学調味料、グルタミン酸が入ってるものを使っていることが多いです。
実際、私も美味しいと思います、食べて。
全く否定しません。
ただ、それを使うと、その美味しさの味わいになってしまうんです。
こだわって作ってる意味がないと思ったんです。
山本:
タレ揉みを辞めるって、当時他にあったんですか?
肉おじさん:
新しい。だってやってなかったもん。
みんなタレ揉んでた。
うちの後かな、数年後に塩ダレっていうのが出ました。
一頭買い:牛を一頭まるごと仕入れること。部位ごとに仕入れる「パーツ買い」に対する言葉で、使い切る責任が生じるかわりに、部位の構成や値付けを自分で決められる。格之進は一頭買いによって、お肉を82種類ほどに分類し、希少部位(ミスジ、三角、トモ三角、ランプ、イチボ、ブリスケットなど)をコース料理として提供する形にたどり着きました。
業界の格付けを、そのまま自社の評価軸にしていないか
熟成肉が生まれた背景には、A5という等級への違和感がありました。A5は高く売れる。しかしA3やA4になると値段が落ちる。食べて美味しくないわけでもなく、原価もそれほど変わらない。そこにある不条理が出発点でした。
肉おじさん:
A5だと高く売れるんで、育てた牛がね。
でもA3とかA4になると値段がガクッと落ちる。
でも食べてみて美味しくないのかって言ったら、そんなこと全然ないんですよ。
原価も一緒だし、そこまで変わらない。
A5になれば高く売れるし、A3、A4だと美味しいのに、やっぱり値段が下がるっておかしいなと思って、これをどうやったら価値化できるかと思いついて、一頭買いと合わせてできたのが熟成肉なんですよ。
山本:
A5は等級というか、ランクですね。
肉おじさん:
A5とかっていうのは流通評価なので、食味評価は一つも入ってないんですよ。
美味しいなんて何も言ってないんですよ。
それをいかにも、それが美味しいみたいに伝わるようなプロモーションしちゃったので、誤解して伝わってるだけなんですよね。
何の美味しさも保証してないですよ、A5って。
歩留まりが良くて霜降りが入ってますって話で、イコール美味しいわけじゃないからね。
A5等級:牛肉の格付けにおける最高ランク。歩留まり(肉が取れる割合)と霜降りの入り方で決まる「流通上の評価」であり、味の評価ではありません。
肉おじさん:
私も尊敬してる肉屋さんでサカエヤさんっていう、滋賀県にある素晴らしいお肉屋さんがあるんですけど、そこなんかも別にA5とか何も気にしてないですよね。
むしろ流通評価の低いものをいかに美味しくするのか、みたいな。
そういったことがもう多分来るだろうなっていうことが、当初からやっぱり思ってましたよね、創業時からね。
絶対おかしい、行き詰まるって。
だから熟成肉とか経産牛っていうのを、もう1999年からやってましたので。
肉おじさんが小学5年生の頃、40年以上前の記憶では、A5の発生率は肉おじさんの体感で3%程度だったといいます。それが今はA4・A5を合わせて85〜90%以上を占めるまでに変わりました。
市場を奪いに行くのか、市場を創るのか
熟成肉が世に取り上げられるまでには、15年かかりました。この時間の長さについて、山本が「目先の売り上げではなく、長い目で見ている」と指摘したところから、この回の核心にあたる話が始まります。
肉おじさん:
だって熟成肉だって1999年から始めて、取り上げられたのって2014年ですよ。
肉フェスで4年連続総合優勝したのがきっかけで。
15年間ずっとやり続けたんですよ。
山本:
15年ぐらい経ってるんですか。
肉おじさん:
一時期、熟成肉のお店がうわーって広がりましたよね。
今どうです、やってます?
山本:
僕がパッと思いつくので、近くに一店舗あるかなって感じです。
肉おじさん:
猫も杓子も熟成肉ってなってたんだけど、結局、目的が儲けるためにやってるから、儲かんないとか、めんどくさいとなったらやめるよね。
だから私は価値を作ろうとしてるから、価値が作れなかったら事業をやってる意味ないじゃんと俺は思っちゃうわけ。
だってどうせ死んじゃうんだもん。
肉おじさん:
私の場合はね、価値は創るものだし、文化は創出するものだから。
今の市場をシェアで見て、それを奪いに行く話と、市場を創る考え方は違うんですよ。
だからやり続けられるんですよ。
売れなくても諦めきれないんですよ。
だって価値を作ろうとしてるものだから。
山本:
確かに。
もう先月何がバズってたか覚えてないですよね。
肉おじさん:
覚えてないでしょ。今だと、タイかフィリピンの船の民族のボートレースで、先頭に立ってる子供が踊ってるやつ、あれ結構世界中でバズってると思うけど、3ヶ月か半年もすれば誰も何もやらない。
一気に広がることはいいけど、継続し続けていくことをやらないと、文化にはならないと思ってんだよね。
新商品は、社会課題から逆算して考える
新商品開発の起点はどこにあるのか。格之進の場合、それは自社の強みからではなく、社会に生じている不条理や課題からでした。和出汁肉と、うにくは、その具体例です。
肉おじさん:
商品開発のポイントって何かって言ったら、私の場合はどちらかというと、自分の位置づけとか在り方を客観的に見て、世の中の不条理や社会課題を解決するために、こういったものがあったらいいよねって自分は思うんですよ。
そういうところから、新しい開発とかエネルギーが湧くんですよ。
肉おじさん:
今はほら、霜降りが多くて。
霜降り離れって言葉が出てきて、過度な霜降りで、生産者も霜降りのお肉をいっぱい食べるのかって言ったら、そんな食べるわけじゃないからね。
山本:
大人はだいぶ、脂もういいや、みたいになります。
肉おじさん:
その霜降り離れを解決する方法として、この脂を中和して美味しさに変えるような形にしたのが、和出汁肉なんです。
出汁の力でグルタミン酸とイノシン酸のバランスを考えながら、お肉の味を中和しながら旨味を出していくみたいな、そういうやり方をやることによって、霜降りのお肉も美味しく食べられるものを発明したんですよ。
> 和出汁肉(わだしにく):出汁のグルタミン酸と肉のイノシン酸をかけ合わせ、脂を中和させて旨味に変える発想の商品。過度な霜降りへの「霜降り離れ」という課題への答えとして開発されました。
肉おじさん:
ウニとお肉のうにくっていうのも、和牛とお寿司ってインバウンドの中で優先順位が高いと思いませんか。
高いものを組み合わせてるわけですよ。
これが日本のサーフアンドターフだと言えるような商品になれたら嬉しいじゃないですか。
それって広がって文化になるじゃないですか。
サーフアンドターフ
海産物(Surf)と肉類(Turf)を組み合わせた料理スタイルの総称です。格之進では、インバウンド需要の高い「和牛」と「ウニ」を組み合わせた「うにく」を日本版サーフアンドターフとして再定義しています。単なる新メニューではなく、食文化として広め、市場そのものを作ろうとする意図が込められています。
山本:
面白い。そういう発想なんですね。
肉おじさん:
広い視点で見ながら、要は社会課題を解決できるかどうか。
それが広がると、どのように人類にプラスになるのかっていうことを、やっぱり考えることですよね。
一頭買いから塩コショウ、熟成肉、和出汁肉まで、格之進が作ってきたのは新しいメニューではなく、新しい評価軸でした。市場を奪いに行くのではなく、市場を創るという視点は、今日の商売にもそのまま持ち込めるはずです。




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